日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒノキチオール」の意味・わかりやすい解説
ヒノキチオール
ひのきちおーる
hinokitiol
非ベンゼン系芳香族化合物の一つ。β(ベータ)-ツヤプリシン、4-イソプロピルトロポロンともいう。
非ベンゼン系芳香族化学の歴史のなかで特別の意義をもつ化合物である。天然物としてタイワンヒノキ、ニオイヒバ、アスナロなどの精油中に含まれる。これらの心材の赤みの色素は、ヒノキチオールの鉄キレート塩であるヒノキチンといわれる。1935年以来、台北帝国大学(当時)の野副鉄男(のぞえてつお)によって徹底的に研究され、1940年ごろにその構造が解明され、1950年には東北大学において合成にも成功した。その間、フェノールに類似の芳香族置換反応が解明され各種の置換体が合成されたほか、安息香酸への転位反応がみいだされた。
殺菌、抗菌性があり、これを含む樹木は腐敗しにくい。異性体のα(アルファ)-およびγ(ガンマ)-ツヤプリシンも天然物として精油中に存在する。
[向井利夫]