日本大百科全書(ニッポニカ) 「トロポロン」の意味・わかりやすい解説
トロポロン
とろぽろん
tropolone
代表的な7員環系芳香族化合物の一つ。1935年ころ野副鉄男(のぞえてつお)がタイワンヒノキから発見しヒノキチオールと名づけ、1940年には構造決定もしたが、第二次世界大戦の混乱期のため、その成果が海外に伝えられなかった。その間、同種の研究を進めていたイギリスのデュワーJohn Dewar(1909―1968)が、1945年にトロポロンと命名した。1950年野副鉄男、アメリカのデーリングおよびイギリスのクックが独自に合成に成功した。
無色の柱状結晶。トロポンとヒドラジンとの反応により得られる2-アミノトロポンを加水分解して合成する。ほかにシクロヘプタン-1,2-ジオンの臭素化、脱臭化水素化や、シクロペンタジエンとジクロロケテンの付加体の加水分解による合成法がある。アルカリ塩を与えるとともに、強酸により塩を与える両性物質である。各種金属とキレート塩をつくる。臭素化、ニトロ化、アゾカップリングなどフェノール類に特有な芳香族置換反応を容易に受ける。天然物として存在するコルヒチン、プルプロガリン、スチピタチン酸、ヒノキチオール類にはトロポロン構造が含まれる。スチピタチン酸は特異な抗菌性を示し、またコルヒチンは植物の細胞分裂を抑える作用をもつので、種なしスイカの生産に利用される。
[向井利夫]