ヒョウモンチョウ

改訂新版 世界大百科事典 「ヒョウモンチョウ」の意味・わかりやすい解説

ヒョウモンチョウ (豹紋蝶)

鱗翅目タテハチョウヒョウモンチョウ亜科Argynninaeの昆虫の総称。狭義にはそのうちの1種を指す。ヒョウモンチョウBrenthis daphneは,南ヨーロッパからシベリアを経て日本全国にまで分布し,年1回発生する。翅の開張5cm前後。ナミヒョウモンともいう。幼虫ワレモコウ類やオニシモツケ食草とし,中齢幼虫で越冬する。山地草原に多い。

 ヒョウモンチョウ類(英名fritillary)はいずれも翅の表が柿色で,黒い斑点が多いため〈豹紋〉と名づけられた。形態,生活史ともよく似ている。日本には大型(開張は最小6cm,最大8cm程度)のものはミドリヒョウモン,メスグロヒョウモンクモガタヒョウモン,ウラギンヒョウモン,オオウラギンヒョウモン,ウラギンスジヒョウモン,オオウラギンスジヒョウモン,ギンボシヒョウモンツマグロヒョウモンの9種が見られる。生息地はすべて山の草原または森林周辺の明るいところで,成虫は花に集まる。幼虫はスミレ類の葉を食べる。ツマグロヒョウモン以外の1齢幼虫は早春に成長を始め,若葉の基部を好んで食べる。幼虫はいずれも褐色で多くのとげがあり,活発にはいまわる。さなぎも褐色で,背面に金色の斑点がある。ギンボシヒョウモンは寒冷地に適応し,タデ科のクリンユキフデも食草とする。ツマグロヒョウモンは南方系で1年に何度も発生する。雌はカバマダラ類に擬態している。メスグロヒョウモンの雌は薄墨色の地に白帯があり,一見イチモンジ類を思わせるが,黒紋や裏面の斑紋は雄と共通点が多い。6種は全国に分布するが,オオウラギンヒョウモンは北海道に分布せず,分布も局地的で,食草となるスミレの種類が限られている。ツマグロヒョウモンは迷チョウとしてのみ北日本に達し,ギンボシヒョウモンは四国と九州には産しない。

 小型の日本産のヒョウモン類には,ヒョウモンチョウとコヒョウモン本州,北海道),北海道特産のアサヒヒョウモン,カラフトヒョウモン,ホソバヒョウモン,近年八重山諸島に定着したと見られる南方系のウラベニヒョウモンの計6種がある。日本産のヒョウモンモドキ類には3種があるが,本州に限られ,しかも局地的分布をする。コヒョウモンモドキは長野県を中心とする山岳地帯に,ウスイロヒョウモンモドキは中国地方の草原に局限される。ヒョウモンモドキは本州各地に分布するが普通種ではない。食草は順に,クガイソウまたはオオバコ,オミナエシまたはカノコソウ,アザミ類である。いずれも雌は多数の卵を一時に産み,幼虫は越冬まで群生し,越冬後に分散する習性をもつ。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒョウモンチョウ」の意味・わかりやすい解説

ヒョウモンチョウ
ひょうもんちょう / 豹紋蝶
marble fritillary
daphne fritillary
[学] Brenthis daphne

昆虫綱鱗翅(りんし)目タテハチョウ科に属するチョウ。ヒョウモンチョウの名は標記の種をさす場合と、ヒョウモンチョウ類全体をさす総称として用いられる場合がある。したがって、前者の意味では、誤解を避けるためにナミヒョウモンとよぶことが多い。中部地方から東北地方南部(福島県甲子(かし)高原)の山地、東北地方北部および北海道に分布し、その分布の西限は岐阜県飛騨(ひだ)地方。国外では朝鮮半島、中国東北部よりヨーロッパにかけてユーラシア大陸の北部に分布が広い。はねの開張50~65ミリメートル程度。ヒョウモンチョウの仲間は、はねの地色は橙(だいだい)色、ヒョウの模様に似て多くの黒点をもつのでこの名がある。

 この種はヒョウモンチョウの仲間では中形種。年1回の発生、6~8月に出現し、高原の草花上に群れることが多い。幼虫の食草はバラ科のワレモコウ、シロバナワレモコウ。幼虫態で越冬する。

[白水 隆]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒョウモンチョウ」の意味・わかりやすい解説

ヒョウモンチョウ
Brenthis daphne

鱗翅目タテハチョウ科。前翅長 25~30mm。翅は丸みがあるが,前翅外縁中央部はほぼ直線状である。翅表は橙黄色で,雌では黄色みを帯び黒色斑が多い。後翅裏面には複雑な斑紋があり,基半部は黄緑色,外半部は紫褐色を帯びる。成虫は夏季に出現し,山地の草原に多くみられ,花に集る。幼虫はワレモコウを食べる。本州中部以北,北海道,朝鮮,シベリア,ヨーロッパに分布し,北海道と東北地方北部産は亜種 B. d. iwatensis,本州中部から東北地方南部に産するものは亜種 B. d. rabdiaという。いわゆるヒョウモンチョウ類は日本にツマグロヒョウモン Argyreus hyperbius,ミドリヒョウモン A. paphiaなど 15種を産し,翅表はいずれも橙黄色地に黒色の「豹紋」があり,区別しにくいが,後翅裏面の斑紋は特徴的で種の識別に役立つ。しかしメスグロヒョウモン Damora saganaの雌だけは黒褐色に白色帯だけで「豹紋」をもたず,雄とはまったく異なる。

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百科事典マイペディア 「ヒョウモンチョウ」の意味・わかりやすい解説

ヒョウモンチョウ

鱗翅(りんし)目タテハチョウ科の1種。北海道と本州中北部,朝鮮,シベリア〜東ヨーロッパに分布。日本では山地にすみ,局所的。開張60mm内外,雄はやや小型。褐色地に黒紋がある。幼虫はワレモコウを食べ,成虫は夏に現れる。ヒョウモンチョウ類は日本にほかに十数種あり,多くはスミレ類を食べる。ヒョウモンチョウ本州中部亜種は絶滅危惧II類,ヒョウモンチョウ東北以北亜種は準絶滅危惧(環境省第4次レッドリスト)。

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小学館の図鑑NEO[新版]昆虫 「ヒョウモンチョウ」の解説

ヒョウモンチョウ
学名:Brenthis daphne

種名 / ヒョウモンチョウ
目名科名 / チョウ目|タテハチョウ科(タテハチョウ類)
解説 / 明るい草原に見られます。
体の大きさ / (前ばねの長さ)24~28mm
分布 / 北海道南部、本州(中部地方以北)
成虫出現期 / 6~8月
幼虫の食べ物 / ワレモコウなど

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