ビタミンB1欠乏症(読み)ビタミンB1けつぼうしょう(英語表記)Vitamin B1 deficiency

六訂版 家庭医学大全科 「ビタミンB1欠乏症」の解説

ビタミンB1欠乏症
ビタミンB1けつぼうしょう
Vitamin B1 deficiency
(内分泌系とビタミンの病気)

どんな病気か

 水溶性ビタミンであるビタミンB1欠乏症には、大きく分けて脚気(かっけ)とウェルニッケ・コルサコフ症候群との2種類があります。前者では末梢神経が、後者では中枢神経が侵されるために起こります。

原因は何か

 ビタミンB1の1日所要量は摂取エネルギー1000k㎈あたり0.4㎎とされています。脚気は、以前はビタミンB1の欠如した精白米を常食することによって、軍隊や学生で多くみられましたが、最近はインスタント食品の普及により、極度の偏食をする人にもまれにみられます。重症のビタミンB1欠乏症であるウェルニッケ・コルサコフ症候群は、アルコール依存症の人に多発することが知られています。

症状の現れ方

 脚気の自覚症状として、全身の倦怠感(けんたいかん)動悸(どうき)手足浮腫(ふしゅ)(むくみ)やしびれ感、感覚異常、筋力低下、腱反射消失脚気心(かっけしん)と呼ばれる心不全が起こります。

 ウェルニッケ脳症は中枢神経の疾患で、眼球運動麻痺(まひ)や歩行運動の失調を伴い、慢性化するとコルサコフ症という記銘力(ものを記憶する力)の低下、見当識(けんとうしき)(時間と場所などを正しく認識する機能)の喪失健忘症作話(さくわ)を主症状とした精神疾患に移行します。

 両者は現在では同一疾患と考えられ、ウェルニッケ・コルサコフ症候群と呼ばれています。

検査と診断

 血中ビタミンB1の低下を確認します。

治療の方法

 ビタミンB1注射によって1日50~100㎎投与します。重症例では1日100~10000㎎もの投与が必要になることがあります。

菅原 明

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「ビタミンB1欠乏症」の解説

ビタミンB1欠乏症(ビタミン欠乏症)

(1)ビタミンB1欠乏症
 ビタミンB1チアミン)は植物で合成され,小腸から吸収される.人体には骨格筋を中心に25~30 mgのビタミンB1が貯蔵されている.偏食,吸収不良(アルコール依存症,葉酸欠乏症,肥満外科手術を含む消化管切除),喪失量増加(下痢,利尿薬),需要量増加(妊娠,過度の肉体労働,甲状腺機能亢進症),高カロリー輸液内へのビタミンの入れ忘れなどにより欠乏症が出現する.
a.脚気(beriberi)
概念
 長期間のビタミンB1欠乏後に発症する.心不全をきたす浮腫型(wet beriberi)と心不全を伴わない末梢神経障害型(dry beriberi)に分類されるが,重複例もある.
臨床症状
 浮腫型では顔面や下肢の浮腫,心肥大,頻脈,心拍出量増加による心不全,食欲不振などを呈する.末梢神経障害の症状として,四肢,特に下肢末梢に強いビリビリとした異常感覚,進行すると感覚鈍麻,アキレス腱反射の消失,四肢遠位部の筋力低下などを生じる.
検査成績
 血中ビタミンB1の低値(40 ng/mL未満),ビタミンB1を補酵素とするトランスケトラーゼ活性値の低下,低下したトランスケトラーゼにチアミンを添加してその活性値の上昇(25%以上)をみるチアミンピロリン酸塩効果,乳酸アシドーシス,末梢神経伝導速度検査や神経生検で軸索障害型の障害を認める.
治療
 10~100 mgのビタミンB1を3~7日間静注する.25~50 mg/日の経口投与も有効である.
b.Wernicke脳症
概念
 多くは慢性のアルコール多飲者,ほかに悪性腫瘍,ビタミン補給なしでの長期間の経静脈栄養,妊娠悪阻などで比較的急速に発症する神経障害である.
臨床症状
 外眼筋麻痺,運動失調,意識障害を3主徴とするが,すべての症状を呈するのは全症例の1/3以下である.両側の外転神経麻痺や水平眼振,進行すると完全な外眼筋麻痺となる.失調性歩行,体幹失調,構音障害を認め,意識障害は傾眠から昏睡まで多様である.意識障害はアルコール離断症状の振戦譫妄と鑑別が困難なこともある.覚醒時に見当識障害,記銘力低下,作話などのKorsakoff症候群を示す.
検査成績
 視床内側,中脳水道近傍,乳頭体にMRIのT2強調画像で高信号,急性期には造影効果を示す病変が特徴で,診断的価値がある.
治療
 臨床症状から本疾患を疑ったら検査結果を待たずに早急にビタミンB1を100~200 mg静注することが重要である.以降は50~200 mgを経口または筋注で継続投与する.ビタミンB1の補充が早いほど予後は良好であり,外眼筋麻痺,運動失調は数日から数週間で回復する.しかしKorsakoff症候群は持続することが多い.チアミンなしにグルコースを投与するとWernicke脳症を悪化させることがあるので,必ずグルコース投与前にチアミンを投与する.[中里雅光]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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