日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビューラー」の意味・わかりやすい解説
ビューラー
びゅーらー
Karl Bühler
(1879―1963)
ドイツの心理学者。バーデン州のメッケスハイムに生まれる。哲学者フッサールの現象学の影響を受けた。初期の研究はウュルツブルク学派の一員として行った『思考について』(1907)である。彼が用いた方法は「課題法」といわれるもので、ニーチェなどの作品を読んで聞かせたり、「イエス」「ノー」で答えるような課題を与えたりして、そのときの経験をあとから被験者に尋ねるもの。思考には心像は必要でない、心像がぼやけても思考はあいまいにはならない、思考は目標指向的、創造的であり、課題の解決を目ざしている、というのが彼の主張である。これに対してW・ブントはもちろん反対したが、フランスではビネーが自分の発見の優先権を主張した(1903)。1918年には『児童の精神発達』を書き、発達年齢、発達指数の概念を提唱した。1922年から1938年までのウィーン大学時代には、『言語理論』(1934)など言語に関する著作により心理言語学に影響を与えた。1938年ユダヤ系のためナチスの迫害を受け、まもなくアメリカに亡命。同じく心理学者のシャルロッテ・ビューラーCharlotte Bühler(1893―1974)は彼の夫人で、おもに発達心理学を専攻し、新生児行動、社会的発達、青年心理学の研究で著名である。晩年、アメリカでは臨床心理学の分野で活躍した。
[宇津木保]
『原田茂訳『幼児の精神発達』(1966・協同出版)』▽『脇坂豊他訳『言語理論』上下(1983、1985・クロノス)』