翻訳|beefsteak
牛肉のステーキ。切身をあぶり焼きか,いため焼きにし,焼目の香ばしさによって引き立てた肉そのもののうまみを味わう料理である。日本ではビフテキともいうが,これはフランス語bifteckのなまりである。
肉は繊維に対して直角に切る。切身は厚みをもたせて,一切れ200gくらいが標準である。肉が柔らかめの場合は,肉たたきで形をととのえる程度に軽くたたく。かための場合はやや強く,繊維をつぶすつもりでたたく。脂身のついている場合は,脂身と赤身の境目の筋を包丁の刃先で2~3ヵ所切り,筋の縮みを防ぐ。塩,コショウは,焼く直前に両面にまんべんなくする。
焼き方は,格子状の鉄灸(てつきゆう)(グリルという溝のある鉄板で代用することもある)を用いて直火(じかび)であぶり焼きにする方法とフライパンや鉄板でいため焼きにする方法とがある。いずれの場合でも,まず強火で手早く両面を焼いて壁をつくり,うまみを含んだ肉汁を外に逃がさぬようにする。あとは切身の肉質や厚さによって火の強さを調節して,好みの焼きかげんに仕上げる。焼きかげんは,ふつうレアrare,ミディアムmedium,ウェルダンwell-doneの3段階とする。レアは,外側は焼けているが中はまだ生の状態,ミディアムは中程度に火が通り,中央に生の部分が残っている状態,ウェルダンはよく焼けて中まで火の通っている状態である。焼くときは,レアの場合は肉を裏返して,焼目がついて乾いた感じになっていた表面が少しぬれてきたとき,ミディアムでは表面に赤い肉汁が少し出てきたとき,ウェルダンは肉汁がたっぷり出てきたときを,それぞれおおよその目安とする。
牛肉の用いる部位によって種々ある。ヒレ(フィレ,テンダーロインtenderloin)は最も柔らかく,脂肪が少ない。頭のほうについていた部分から腰のほうへ向かって太くなっており,後端部につづく最も太い部分からはシャトーブリアンchateaubriand,それにつづく中心部からはトルヌードtournedos,そしてこれら以外の両端部からはヒレミニョン(フィレミニョン)filet mignonと呼ぶステーキがつくられる。シャトーブリアンは,フランスの文学者,政治家で美食家として知られたF.R.deシャトーブリアンの名にちなむもので,彼の料理人が主人のためにふつうの2倍もの厚さに切った肉をステーキにしたのに始まるといわれる。トルヌードは150g程度の円形の厚切りにしたものを用いる。いわゆるロースは適度な柔らかさと脂肪があり,肩寄りのリブを用いたリブステーキ,腰に近く,肉質が最もよいとされるサーロインを焼いたサーロインステーキなどがある。サーロインにつづいて腰骨の上部に位置するランプrumpを用いたランプステーキは,やや,かみごたえがある。これらのほか,T字形の骨をはさんで片側にヒレ,片側にサーロインの肉のついた大きな塊を使うティーボーンステーキT-bone s.と,これより少し腰寄りの部位から同様に切り取ったポーターハウスステーキporterhouse s.などがある。また部位にかかわらず薄切りにした肉を手早く焼いたミニッツステーキminute s.(短時間で焼けるための名),ヒレ肉を2度びきしてハンバーグ状にまとめ,タマネギ,ケーパー,ピクルスのみじん切りや卵黄を添えて生のまま食べるタルタルステーキtatar s.,あらびきしたコショウを両面にたっぷりまぶしつけて焼くペッパーステーキなどもある。このほか作曲家ロッシーニの名をもつロッシーニ風トルヌードというのもある。これは前述のトルヌードを揚げた薄切りパンの上に置き,上にフォアグラとトリュフを添えるものである。
付合せとして最も一般的なのは,フライドポテトとクレソンである。このほかニンジンのグラッセ,インゲンのバターいため,ホウレンソウのクリーム煮など,温かく調理したものを添えるのがふつうである。ソースもいろいろのものが使われるが,代表的な一例をあげる。ステーキをとり出し,焼脂を捨てたあとのなべに,ブドウ酒やマデイラ酒を加えてなべ底についたうまみのある焦げをこそげとり,肉のフォン(ソースの土台となるだし汁)や生クリームを加えて少し煮つめ,塩,コショウ,香辛料で味をととのえる。また塩,コショウ,刻みパセリ,レモン汁と合わせたバターを直径2cmくらいの棒状に冷やし固めたものを1cmほどの厚さに切り,焼きたてのステーキの上にのせる。
執筆者:辻 静雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
肉の切り身を焼いた牛肉料理の一種。ステーキに適する肉の部位は、最高の部分がサーロイン、ヒレ、リブロース、ランプなどである。また、一切れの大きさは150~200グラムぐらい、肉の形は小さくなっても厚みが1.5センチメートルぐらいのものが肉汁が含まれていて美味である。
[小林文子]
ステーキは焼き方がそのうまさを決定するぐらいにたいせつである。焼き方にはブロイル(あぶり網焼き)とパンブロイル(強火のフライパン焼き)がある。ブロイルのほうは、とくにチャコール(炭火)焼きが優れている。パンブロイルでは、フライパンのほかに、厚い鉄板で焼く方法もある。一般の家庭では手軽なフライパン焼きの利用度が高い。
[小林文子]
肉は食べる人の好みや肉質によって焼き方を加減する。すなわち、レアrare(生焼き)、ミディアムmedium(中焼き)、ウェルダンwelldone(よく焼いたもの)に大別される。レアは肉の内部温度が50~55℃で、肉の焼き色は内部のほとんどが鮮赤色をしており、ミディアムに加熱した場合よりも肉汁が切り口から多く出てくる。いわゆる生焼きの状態である。ミディアムは肉の内部温度が68℃で、外側表面の焼き色はむらのない茶褐色、内側は桃色で、肉汁もレアより少なくなっている。ウェルダンは肉の内部温度が70~80℃で、外側全体に照りのある茶褐色の焦げ目がつき、内部は白っぽい桃色になり、肉汁も少ない。加熱によって肉は、色、重量、大きさ、脂肪組織、結締組織、筋肉繊維、風味などに変化をおこす。上質肉の生焼きが最高に美味である。
[小林文子]
メートル・ド・テール・バターソースbeurre à la maître d'hôtel、つまりレモンバターソースを用いるのが一般的。これは溶かしたバターにパセリのみじん切りとレモン汁を加えて混ぜ合わせ、パラフィン紙の上に2.5センチメートル径の棒状にして包み、両端を縛って冷蔵庫で冷やす。これを2センチメートル厚さの輪切りにして焼きたてのステーキにのせて供する。なお、西洋ワサビのおろしたものを添える。
[小林文子]
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