翻訳|sauce
西洋料理の調味用の液体または半流動体のもの。ソースの語源はラテン語のsalsus(塩をしたの意)で,さらにsal(塩)までさかのぼることができる。ソースの原形は古代ローマで盛んに作られていた調味料〈ガルムgarum〉にみられる。ガルムは,サバ,アンチョビー,ニシンなどの魚の内臓を樽に入れ,塩を加えて発酵させてできた汁をこしたもので,これを料理にふりかけたり,酢,水,油などと合わせて用いていた。
ソースは,食卓でまたは調理中に用いる調味料と,料理の一部として作られるものとに大別される。調味料としての市販品のソースはウースターソースに代表される。日本には明治に入って渡来し,日本人好みの味に作られるようになった。ほかにケチャップ,チリソース(トマトにチリペッパー,タマネギ,ニンニク,酢などの調味料を加えて作った辛みの強いソース),タバスコソースなどが市販されている。
料理の一部として作るソースはとくにフランスにおいて発達した。このソースの発生は,種々の材料を煮た汁が煮詰まった状態にあるとみられ,材料のうまみをより凝縮したものとしてさまざまな料理に合ったソースがくふうされた。その種類は数百種とも数千種ともいわれるが,すべて基本となる数種のソースの応用形であると考えられる。
ほとんどのソースの土台となるのはだしで,白色系のソースの土台となる〈白いフォンfond blanc〉と茶色系ソースの土台となる〈茶色いフォンfond de veau〉,鶏をはじめとする家禽(かきん)類の料理用の〈鶏のフォンfond de volaille〉,それに魚料理に用いる〈魚のフュメfumet de poisson〉がある。これにルーrouxをはじめとする種々のつなぎを合わせてソースが作られる。
〈白いフォン〉は下ゆでした子牛のすねの骨と野菜(ニンジン,タマネギ,セロリ,トマトなど),香辛料(パセリの茎,タイム,ゲッケイジュの葉,丁字)を加えた水を沸騰させたのち,表面がおどるくらいの火加減で,蒸発分の沸騰湯を加えながら,4~10時間煮込んでこしたもの。〈茶色のフォン〉は,あらかじめサラダ油で焼き色がつくくらいにいためておいた野菜と,表面全体に焼き色をつけた子牛のすね肉の固まり,香辛料を,4~5時間煮てこしたもの。〈鶏のフォン〉は,白いフォンの子牛の骨の代りに鶏と鶏がらを用いて約3時間煮てこす。〈魚のフュメ〉は,白身魚のあらを,あらかじめバターでいためた薄切りのタマネギ,ニンジン,マッシュルーム,シャロットに加えて火を通し,白ブドウ酒を加えて煮つめる。水とレモン汁,香辛料を加えて20~30分間煮込み,コショウで仕上げてこす。
ソースに濃度をつける〈つなぎliaison〉には,ソースの土台になる〈ルー〉と,ソースの仕上げに加えるものとがある。ルーはバターで小麦粉をいためて作り,〈白いルーroux blanc〉およびさらにいためた〈ブロンド色のルーroux blond〉〈茶色のルーroux brun〉がある。仕上げに加えるつなぎには,同量のバターと小麦粉を練り合わせた〈ブールマニエbeurre manié〉や生クリーム,卵黄などが用いられる。また,野ウサギなどの野鳥獣の料理用のソースにはおのおのの血をつなぎに用いることもある。
フランス料理の基本になるのは次の8種類のソースである。(1)ソースベシャメルsauce Béchamel ホワイトソースの名でも知られている。白いルーに牛乳を加えてどろりと濃度がつくまで煮詰める。クリーム煮やグラタン,クリームコロッケなどに用いる。応用ソースには,卵黄とおろしたグリュイエールチーズを加えたソースモルネーsauce Mornay,タマネギの薄切りをゆで,バターでいためたものを加えたソーススービーズsauce Soubiseなどがある。(2)ソースブルーテsauce veloutée ブロンド色のルーを用い,子牛の料理には白いフォン,魚料理には魚のフュメ,鶏料理には鶏のフォンを組み合わせる。鶏のソースブルーテに生クリームを加えるとソースシュプレームsauce suprême,魚のソースブルーテに卵黄と生クリームを加えるとソースノルマンドsauce normandeという応用ソースができる。(3)ソースエスパニョールsauce espagnole ブラウンソースともいう。ビーフシチューや肉,野菜の煮込み料理などによく用いられる。茶色のルーにミルポアmirepoix(香味野菜やベーコン,香辛料などをあめ色にいためたもの)と茶色のフォンとトマトピュレーを加えて煮詰めてこす。これに同量のフォンを加えて全体の1/2量までに煮詰め,マデラ酒などで風味をつけるとソースドゥミグラスsauce demi-glaceができる。(4)ソーストマトsauce tomate 広範囲に使われる赤いソース。ミルポアに小麦粉をふり入れてブロンド色にいため,荒切りのトマトとトマトピュレー,白いフォンを加えて煮込んでこす。(5)ソースアメリケーヌsauce américaine エビを殻つきのまま香味野菜とともにいためて魚のフュメで煮込んだ赤いソース。イセエビの煮込みや魚料理に用いる。これに生クリームを加えた応用ソースはソースナンテュアsauce Nantuaという。(6)ソースオランデーズsauce hollandaise ゆでたアスパラガスや魚介料理などに用いる黄色いソース。卵黄と水を湯煎(ゆせん)にしてとろりとするまでかき混ぜたところへ,溶かしバターの上澄みを少量ずつ加え,塩とレモン汁で味を調える。
以上は温かいソースだが,冷たいソースとして次の二つがある。(7)ソースマヨネーズsauce mayonnaise 卵黄,マスタード,酢(フルーツ酢),塩,コショウをよく混ぜ,絶えずかき回しながらサラダ油を糸を引くように加える(マヨネーズ)。これに固ゆで卵,タマネギのみじん切り,香草を加えた応用ソースはソースタルタルsauce tartare(タルタルソース)。(8)ソースビネグレットsauce vinaigrette フレンチドレッシングともいう。油(サラダ油かオリーブ油)3に対して酢(ワイン酢かフルーツ酢)1の割合で混ぜ合わせ,塩,コショウ,マスタードで調味したもの。
そのほか,焦がしバターや,バターに種々の材料を混ぜ合わせた合せバター,ローストの焼き汁を調味したグレービーgravy,サラダ用の種々のドレッシング,デザート用の甘味のソースなどもソースの一種と考えられている。甘味のソースを例に挙げると,(1)ソースアングレーズsauce anglaise カスタードソースともいう。卵黄と砂糖をかくはんした中に温めた牛乳を加え裏ごしにかけ,煮詰めて作る。(2)ソースサバイヨンsauce sabayon 卵黄と砂糖を混ぜ合わせ湯煎にかけながら,白ワインを少しずつ加え,かき立てて作る。(3)ソース・オ・フリュイsauce aux fruits フルーツソースのこと。果物を裏ごしして砂糖を加えて煮る。(4)ソース・オ・キャラメルsauce au caramel カラメルソースのこと。砂糖と水を煮詰めて作る濃い黄金色のこうばしいソース。(5)ソース・オ・ショコラsauce au chocolat チョコレートソース。牛乳にチョコレート,生クリーム,バターを加えて作る。
〈フランス料理はソースで食べる〉といわれ,素材の味を引き立てると同時に欠点を包みかくすような強い味のソースが作り出されてきた。しかし,交通機関が発達し,新鮮な材料が手に入るようになるにつれ,素材の持味を十分に生かすために,ソースは軽くまろやかになっていった。ほとんど濃度をつけないさらりとしたソースが用いられるのが新しい傾向となっている。
執筆者:辻 静雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
魚、肉、野菜料理、菓子、デザートの添え汁として料理にかけたり、その汁で煮込むことによって料理が独特のうまみを発揮する「とろみのある素(もと)汁」をソースという。ソースは主材料の持ち味を高めるものとして用い、ソースを加えることによって料理の個性が際だち、さらに他との調和がとれるならば、調理は成功したといえる。
ソースの歴史はローマ時代にさかのぼるとされるが、当時のものは現在の姿と遠く離れている。ソースは王朝文化のなかで発達し、19世紀に入って近代フランス料理のなかで磨かれ、発展した。ソースの語源はラテン語のsal(塩)やsalsus(塩漬けの)から転化したといわれている。ソースの数は非常に多く、300とも500ともいわれているが、いずれも基本の10種足らずのソースに変化を加えたものである。日本でソースといえば、ウースターソースが該当するとされ、料理用ソースと混同されがちであった。ウースターソースはイギリスのウースターでつくられる辛味の強いソースで、生ガキなどに数滴落として食べるためのものであったが、しょうゆに色が似ているところから、料理の上からどっぷりかけるものと受け取られてきた。明治時代日本に上陸後は日本風に改良され、独特の洋風ソースとなった。とんかつソース、中濃ソースなどは、和製洋風料理用につくられたものである。タバスコソース、チリソース、トマトケチャップ、アンチョビーソースなどは、香辛料、調味料として食卓に並べられる場合もある。
[小林文子]
温かいソース、冷たいソース、その他のソース、デザート用ソースなどがある。
(1)温かいソース 白色系ソース、茶褐色系ソースがある。白色系ではベシャメルソースsauce béchamel(フランス語)が基本的で、バターと小麦粉の割合を同量から1.5倍にし、焦がさないように炒(いた)めて、温めた牛乳でのばし、塩、こしょう、ナツメグ、ローレルを入れ、軽く煮つめてつくる。ブルーテソースsauce velouté(フランス語)は、ルウを軽いクリーム色に炒め、白いだし汁でのばして生クリームを入れてつくる。茶褐色系ソースのブラウンソースsauce brune(フランス語)は、ルウを時間をかけてゆっくりと鳶(とび)色に焦がし、茶色のだし汁でのばしたものをいう。ドミグラスソースsauce demi-glace(フランス語)はブラウンソースに濃縮肉汁やマデラ酒を加えたもの、またエスパニョルソースsauce espagnole(フランス語) はブラウンソースにトマトペーストを加えて煮込んだものをいう。このほかトマトソースなどがある。
(2)冷たいソース サラダ料理などに用いられる。ビネグレットソースsauce vinaigrette(フランス語)はフレンチドレッシングともいい、酢と油でつくったソースである。油の量は酢の量より2~4倍は必要である。ショーフロアソースsauce chaud-froidは、冷製の魚・肉を覆うゼラチンを加えたソースをいう。このほかマヨネーズソースなどがあり、変形のタルタルソースは、マヨネーズソースにタマネギ、キュウリ、パセリ、ピクルス、ゆで卵の細かく刻んだものに、レモン汁などを入れたものをいう。
(3)その他のソース 冷たいソースに入るが、高級なソースとしてオーランデーズソースsauce hollandaise(フランス語)、ベアルネーズソースsauce béarnaise(フランス語)がある。オーランデーズソースは卵黄とレモンを使ったもの、ベアルネーズソースは白ワイン、エストラボン、卵黄、バター、酢、パセリ、タマネギなどを使う。このほかグレイビーソースgravy sauceはアメリカの家庭料理でよく使われるソースで、焼き肉の際の肉汁を漉(こ)して、塩、こしょうで調味したものをいう。
(4)デザート用ソース 菓子、果実などに使われる。カスタードソースcustard sauceは卵と牛乳でつくったもの、サバヨンソースsauce sabayon(フランス語)は卵を湯煎(ゆせん)しながら泡立て、ラム酒で香りをつけた温かいソースをいう。このほか、泡立て生クリームcrème chantilly(フランス語)、ジャムの裏漉しソースsauce confiture(フランス語)、カラメルソースsauce caramel(フランス語)などがある。
[小林文子]
ソースをつくるうえでたいせつなことは、うまいだし汁(フォン)で、上手に炒めたルウを溶きのばすことにある。白いソースは白いルウを白いだし汁でのばし、魚料理のソースには魚のだし汁が必要である。
(1)白いだし汁fond blanc(フランス語) 仔(こ)牛、鶏肉、骨、芳香野菜、スパイスを煮て漉す。
(2)茶色のだし汁fond brun(フランス語) 牛すね肉、仔牛、鶏、骨などを野菜とともに炒めて色づけしてから、ゆっくり煮だす。
(3)魚のだし汁fumet de poisson(フランス語) よく洗った魚のあら、芳香野菜、白ワイン、レモン、水を中火にかけ、静かに沸騰させ、あくをすくい取り、20分煮て、漉してから煮つめる。
(4)濃縮肉汁glace de viande(フランス語) 骨や肉を長時間煮だして、肉のゼラチン質を出したもの。煮つめて上等のソースの仕上げに用いる。ゼリー分に富むため、冷やすと固まる。
ソースにとろみをつけるには、バター、小麦粉を炒めたルウ、リエゾンなどを用いる。リエゾンはソースの仕上げどきに入れて、濃度、うま味、風味をつけるもので、バター、生クリーム、卵黄、ブールマニエ(柔らかくしたバターを小麦粉と混ぜ合わせたもの)などをいう。ソースのでき・不できは料理の味を支配し、食べるという人生の楽しみの一つに大きく影響する。
[小林文子]
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