日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ピューリタン・エクソダス
ぴゅーりたんえくそだす
Puritan Exodus
17世紀前半ヨーロッパを脱出して北アメリカ大陸へ移住したピューリタン(清教徒)が、自らの経験を『旧約聖書』の故事になぞらえてエクソダスと解釈し、自分たちは「ピューリタン・エクソダス」を実践し、神意の下にある選民であると考えた。エクソダスとは、離郷・出国を意味し、固有名詞としては、『旧約聖書』の第二書、「出エジプト記」のこと。神の啓示を受けたモーセがイスラエルの人々を率いてエジプトを脱出、途中、神が数々の奇跡を行い、モーセを救ったとされる神話である。すなわち、移民の大部分はキリスト教国のプロテスタントであったが、雑多な人種からなる移民が当地で真に共有したものは、創造主なる神と、摂理の下での神の宇宙支配への信仰であった。ピューリタニズム研究をアメリカ史の中枢に位置づけ、『ニューイングランド・マインド』の著者として知られるペリー・ミラーによれば、当時、「神の意志こそが、あらゆる出来事の第一番目の原因」であったのであり、出エジプトとピューリタンのニュー・イングランドへの脱出とが類似の物語とみなされたことも当然であろう。以後、アメリカ史において、国家が危機に直面したとき、指導者はピューリタンの使命感に国家の存在理由を求める。リンカーンが、南北の対立が悪化したとき、人々に「愛による結束」を訴えたのも、神意の下に建国された国アメリカは、「全世界の、最後で最善の希望」であるがゆえに維持されねばならないと考えたためである。1961年の大統領就任演説のなかで、三か所も神に言及したことで知られるケネディなど、現代の指導者たちの重大な政治決定にも同様の感情がみいだされる。
[野村文子]
『大下尚一編『ピューリタニズムとアメリカ』(『講座 アメリカの文化Ⅰ』所収・1969・南雲堂)』▽『Perry MillerErrand into the Wilderness (1956, Harvard Univ. Press, Cambridge, Massachusetts)』