改訂新版 世界大百科事典 「ピルトダウン事件」の意味・わかりやすい解説
ピルトダウン事件 (ピルトダウンじけん)
Piltdown forgery
ロンドン郊外のピルトダウン採石場で,1908-12年にかけてドーソンC.Dawsonが発見した化石人骨が,実は捏造であったという事件。大英博物館(自然史)のウッドワードS.A.Woodwardは,ドーソンと現場を訪れ,さらに化石を発見し,この脳頭蓋と下顎骨の化石をエオアントロプス・ドーソニEoanthropus dawsoni(ドーソンの曙人)と命名した。それを受けて,イギリスの人類学の権威者であるキースA.KeithやスミスG.E.Smithたちは,この化石が更新世の人類であると認めた。当時はフランスやドイツでは多くの人類化石が発見されていたので,それに対抗してイギリスのナショナリズムが大いに高揚された。アメリカのヘリチカA.Hrdličkaのように疑問を呈した形態学者もあったが,それらの意見は無視された。53年になって,オークリーK.P.OakleyとワイナーJ.S.Weinerが骨に含まれるフッ素の量を分析した結果,現代の骨であることがわかり,脳頭蓋はヒト,下顎骨はオランウータンであることが露見した。その後,放射性炭素法による年代推定も行われたが,数百年前にしかさかのぼらないことがわかった。この化石を捏造したのは誰であったのかが長年にわたって問題となり,ドーソンだけでなくキースや小説家のドイルA.C.Doyleなど多くの関係者が疑われ,多くの本が書かれている。最近,大英博物館の研究員だったヒントンM.A.C.Hintonが捏造に関係していたことが明らかになったが,全貌は解明されていない。
執筆者:馬場 悠男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報