贋作(読み)ガンサク

デジタル大辞泉 「贋作」の意味・読み・例文・類語

がん‐さく【×贋作】

[名](スル)にせものを作ること。また、その作品。「有名画家の作品を贋作する」
[類語]模造偽造偽作贋造代作変造複製作り物偽物紛い物食わせ物如何様いかさま擬古コピーイミテーションレプリカフェイク

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精選版 日本国語大辞典 「贋作」の意味・読み・例文・類語

がん‐さく【贋作】

  1. 〘 名詞 〙 小説、絵画、工芸品などのにせもの。
    1. [初出の実例]「之を望ば精良、之に近ば濫悪。偽製、贋作、又委(すて)、又曝す」(出典江戸繁昌記(1832‐36)三)
    2. [その他の文献]〔沈徳符‐顧曲雑言〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「贋作」の意味・わかりやすい解説

贋作
がんさく

にせもの、偽作などともいう。高価なものや希少なものに対するあこがれは、人間の心のなかに深くある。しかし、それを個人的に所有することの困難さから、人はその代替品によって、視覚的に鑑賞することで満足するのが普通である。にもかかわらず、自分だけにはその種のものを得るチャンスがあると過信するときに、贋作者の設けた罠(わな)に陥る。

 贋作は、高価で希少なものすべてについて存在しうるが、その大部分意図的につくられるものであり、偶然そうした作用をするものはきわめて少ない。模写、レプリカ(模造品)、同時代の類似作といったものが贋作として利用されることもなくはないが、ほとんど例外に属する。精巧な複製品にしても同様である。贋作が偶然にできるものでないという意味は、一定の技術をもった贋作者が背後に存在するということにほかならない。つまり、絵画の贋作は画家によって、陶磁器のそれは陶芸家によってつくられるのであり、素人(しろうと)のなしうることではない。もちろん、個々の贋作者の力量に巧拙があり、その差異によって、一見してそれとわかるものもあれば、専門家間の論議を引き起こすようなものもある。いずれにせよ、贋作は文化の歴史とともにあり、とりわけ美術上の贋作は贋金(にせがね)とともに古い。とはいえ、ルネサンス以前の贋作は主として彫刻の類であり、少数であった。その数が増加するのは、絵画や版画が誕生した15世紀以降であり、とくに市民階級の文化的欲求が高まった19世紀以降である。

 19世紀末のヨーロッパでは国際的な美術市場が成立し、美術品の売買が活発になるとともに、人気作家の贋作が急に氾濫(はんらん)し、しばしば混乱を引き起こし、事件を生んだ。レオナルド・ダ・ビンチ以降のルネサンスやバロックの巨匠、そして近代ではセザンヌ、ファン・ゴッホなどに数々の贋作が現れ、美術館や専門家を渦中に引き込んだ。なかでも数多いのはレオナルド、レンブラント、ファン・ゴッホであろう。レオナルドの真作の実数はいまだに確定していないし、レンブラントとファン・ゴッホの総目録は何度も再編集され、そのつど真贋に移動が生じている。ブリューゲルの場合やっかいなのは、父と複数の息子との関係で、今日の研究では、息子の作とされている作品も少なくない。大工房をもった画家の師弟関係も複雑であり、ルーベンスにその代表例がみいだされる。

 事件として最大なのはフェルメールのケースである。寡作であり、それだけに再評価が急激だったこの17世紀の画家にねらいを定めて1930年代にファン・メーヘレンが行った贋作は、精巧さにおいて、また価格において史上まれにみるものといわれている。ただ、世間を震駭(しんがい)させるようなこの規模のものは数えるほどしかない。贋作の圧倒的に多くは技術的に幼稚であり、それを表面的な華麗さで補っているにすぎない。原作者と贋作者との差異は技術的にも内容的にも甚だ大きいといえる。この種のものが絶えず市場に出没し、なくなることがないところに、人間の欲望の無限の深さをうかがうことができる。真の芸術愛をもって美術品に接している人は寥々(りょうりょう)たるものである。

 同じ事態は、中国や日本でも古くから顕著である。東洋画は、基本的に模写によって作画することを習慣としているところから、無数の類同物が存在しており、古い時代の作品になればなるほど、現存するものがはたして原作品であるかどうかが疑われる。室町時代の日本に大量にもたらされた馬遠(ばえん)や牧谿(もっけい)の作品の多くが「伝」とされているのは、そのためである。

 同時期の日本の作品も同様で、天章周文(てんしょうしゅうぶん)の作品で確定的なものは皆無に近い。その弟子といわれる雪舟(せっしゅう)にしても、どこまでが真作であるか、その範囲に関して専門家の見解に一致はない。下って江戸時代に入っても尾形光琳(こうりん)のような独立的な画家で、近代になってから高い評価を受けた画家の作品にも問題が多い。ルーベンス的に多作で弟子の多かった葛飾北斎(かつしかほくさい)の真作をどの範囲に限定するかも容易ではない。真贋の区別をあまり厳密にしたがらない長年の習性によって、近年に至っても数々の大事件が起こっている日本である。その種のものがとくに陶磁器の分野に多いことは、永仁(えいにん)の壺(つぼ)や佐野乾山(けんざん)をめぐる騒動によって明白である。贋作は日常的に至る所にみいだされるが、多くの場合その作者は判明しない。もし判明したとしても犯意の追及が困難であるため、処罰されることも少なく、市場に出回る贋作の数はいっこうに変化しない。

[瀬木慎一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「贋作」の意味・わかりやすい解説

贋作
がんさく
art forgery

制作者あるいは制作年代などを偽って,買手をだます意図のもとに制作された美術品。現存作品もしくは実在した作品をそのまま模倣したもの,特定の作者または時代の様式を模倣したもの,いくつかの原作をもとにその諸部分を集めて作られたものなどがある。文献に残る最古の例はローマ時代のファエドゥルスが語るローマ人によるギリシア彫刻の贋作。中世ではほとんどその例がないが,ルネサンス期に再び現れ,18世紀の考古学の興隆とともに増加する。近代から現代にかけては鑑定家の目を欺くきわめて巧妙な贋作も少くなく,19世紀ではギリシア,エトルリア,ローマ,ルネサンス初期の彫刻の贋作者 A.ドッセーナ,20世紀ではフェルメールの贋作者 H.メーヘレンなどの例が特に有名。日本では,江戸時代初期から日本画の贋作が行われるようになり,中期以後は在世の名人の贋作も現れた。 (→オリジナル , 模写 )

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図書館情報学用語辞典 第5版 「贋作」の解説

贋作

人を欺く意図をもって,年代や制作者を偽った図書,文書,絵画,工芸品などを作ること,またはその作品.技法や作風などを真似て過去に存在しないものを新しく作った贋作と,存在するものを精巧に模倣・複製して作った贋作とがある.この用語は美術品に対して用いられることが多く,図書や文書に対しては「偽書」「偽作」も用いられる.

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デジタル大辞泉プラス 「贋作」の解説

贋作

米国の作家パトリシア・ハイスミスのミステリー(1976)。原題《Ripley under Ground》。「トム・リプリー」シリーズ第2作。2005年ロジャー・スポティスウッド監督で映画化。

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改訂新版 世界大百科事典 「贋作」の意味・わかりやすい解説

贋作 (がんさく)

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普及版 字通 「贋作」の読み・字形・画数・意味

【贋作】がんさく

偽作。

字通「贋」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の贋作の言及

【鑑定】より

…鑑定家自身に経験と判断力が求められたわけである。やがて贋作が多く現れるようになると〈目利き〉に真贋判断の意味が加わり,鑑定を業とする専門家が現れる。桃山時代,刀剣の鑑定には本阿弥家(本阿弥光悦)が,書跡では古筆家(古筆了佐)が登場する。…

【偽作】より

…真正な作品に対するもの。贋作,にせものとも呼ぶ。
[美術]
 狭義には,収集者や鑑賞者を欺く目的で,意図的に偽造された美術作品を指す。…

※「贋作」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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