日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピレンヌ」の意味・わかりやすい解説
ピレンヌ
ぴれんぬ
Henri Pirenne
(1862―1935)
ベルギーの歴史家。ベルビエに生まれ(12月23日)、ブリュッセル郊外に没す(10月24日)。リエージュ大学卒業後パリの古文書学校、高等研究学院、ドイツのライプツィヒ、ベルリン両大学に留学する。帰国後母校で古文書学を講じたのち、ガン(ヘント)大学に転じ、1930年に退職するまでベルギー史、西洋中世史の講義を担当、ピレンヌ学派とよばれる一群の俊才を育てた。第一次世界大戦中ドイツ占領軍に対する不服従運動を指導したとして逮捕され、ドイツで抑留生活を送るが、戦後は国民の英雄と仰がれ、ガン大学学長などの要職についた。世界的名声を博したピレンヌ史学最大の魅力は、独創的新学説の提唱と、新学説に立脚する風格ある歴史の叙述とにある。『ベルギー史』全七巻(1900~32)では、新興の祖国ベルギーがゲルマン系のフラマン人とラテン系のワロン人で構成される複合国家でありながら、その国民的統一の源泉が中世にまでさかのぼることを解明しようとし、『中世都市』(1927)では、中世都市成立論を法制史偏重のドイツ学界の伝統から解放し、経済史的背景を重視する立場から、商人の活躍を中心に据えた新しい成立論を完成した。遺著『マホメットとシャルルマーニュ』(1937)では、古代から中世への転換の原因はゲルマン人の移動ではなく、イスラム勢力の地中海への進出であったとする新説を立証しようとした。
[佐々木克巳]
『佐々木克巳著『歴史家アンリ・ピレンヌの生涯』(1981・創文社)』▽『ピレンヌ著、増田四郎監修、中村宏・佐々木克巳訳『ヨーロッパ世界の誕生――マホメットとシャルルマーニュ』(1960・創文社)』▽『ピレンヌ著、佐々木克巳訳『中世都市――社会経済史的試論』(1970・創文社)』