ヘント(読み)へんと(英語表記)Gent

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘント」の意味・わかりやすい解説

ヘント
へんと
Gent

ベルギー北西部、東フランドル州の州都、商工業都市。ゲントともいう。フランス語名ガンGand。人口22万6220(2002)。

[川上多美子]

地誌

リス川とスケルデ川の合流点に位置し、オーステンデオランダのテルニューゼンに運河が通じ、ベルギー第二の港湾をもつ。ベルギー第一の繊維工業都市だが、ドイツなどの化学繊維の発達に圧迫され不振となったため、国や外国資本の導入により新規工業の育成が図られた。北郊には鉄鋼造船、繊維、製紙、自動車組立て、肥料、石油化学工業などが発展してきた。またヨーロッパ有数の園芸地帯を控え、5年に1回、世界の園芸家の参加するヘント花祭が開催される。9世紀のフランドル伯城、12世紀の聖バボン大聖堂、レイエ川沿いのギルドハウス群、フランドル派の絵画を蔵する美術館もある。オランダ語圏の学問の中心ヘント大学(1817創立)の所在地。劇作家メーテルリンクの生地。

[川上多美子]

歴史

9世紀にフランドル伯が城を築いてから商工業の中心地として発展、自治権を得た12世紀後半から15世紀まで、ブリュッヘイーペルとともにフランドル毛織物工業を支えた。百年戦争でイギリス産羊毛の輸入が封鎖されると、親フランス派のフランドル伯に反抗、イギリス王エドワードをフランス王と宣言した。1453年ヘント(ガン)の軍はフィリップ善良公に敗北、88年市は包囲された。この町に生まれたカール5世により特権を奪われた16世紀以後は、イギリス、オランダに押されて毛織物業は衰微した。しかし、19世紀に入って紡績が盛んになり、ベルギーの織物業の中心地となった。オランダ独立戦争初期の「ゲントの和約」(1576)の締結地である。

[米田潔弘]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘント」の意味・わかりやすい解説

ヘント
Gent

フランス語ではガン Gand。ベルギー北西部,オーストフランデレン州の州都。運河化されたスヘルデ川 (エスコー川) とレイ川の合流点に位置し,7世紀に起源をもつベルギーで最も古い都市の一つとされる。フランドル伯領の首都であったが,織布業の中心地として発展したため商工業者のギルドの力が強く,多くの特権を与えられ,1584年までは自治都市であった。 16世紀後半から政治的,経済的に衰退したが,19世紀になって綿工業の導入,運河の開通 (1822~29) ,河港の開設 (27) により再び繁栄を取戻し,現在,ベルギー第2の港をもつ繊維工業,商業,金融業の中心地となっている。周辺部では,花卉栽培,園芸農業が盛んで,5年ごとに花卉展覧会も開催される。歴史的建造物はベルギーの諸都市のうちで最もよく保存されており,フランドル伯の居城 (1180) ,市庁舎 (16~17世紀) ,鐘楼 (14世紀) ,衣料会館 (14世紀) ,金曜市場のほか,ファン・アイク兄弟の『ヘントの祭壇画』で有名なゴシック様式のサン・バボン大聖堂 (14~16世紀) など多くの聖堂がある。博物館,美術館も多く,総合大学,農業大学とあわせて,文化,教育の中心地でもある。ヘントの平和締結 (1576) ,アメリカ=イギリス戦争の終結条約締結 (1814) の舞台。人口 23万 246 (1991) 。

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