日本大百科全書(ニッポニカ) 「ファーター石」の意味・わかりやすい解説
ファーター石
ふぁーたーせき
vaterite
炭酸カルシウムの鉱物で方解石、あられ石と同質異像関係にあるが、非常に不安定なため、前二者よりはるかにまれで、産出も限られる。化学的安定条件は明らかになっていないが、400℃以上で方解石に転移する。自形未報告。非常に微細な繊維状物質で、これが球顆(きゅうか)状集合を形成する。粗粒玄武岩の貫入によって生成された石灰岩起源のスカルン鉱物の空隙(くうげき)に生じたカルシウムケイ酸塩を主体とするゲル状物質中の固相物質として発見される。また、いったん生成されたカルシウムケイ酸塩鉱物と方解石の集合体に、低温条件で炭酸ガスを含む地下水の循環でも生成されることがある。日本では北海道足寄(あしょろ)郡足寄町シオワッカ(石灰華半ドーム)にある冷泉起源の湖水で冬季に生成される沈殿物中に見いだされる。
共存鉱物はシオワッカでは方解石、モノヒドロカルサイトmonohydrocalcite(化学式Ca[CO3]・H2O)、イカ石など。同定はなんの特徴もない白色粉末なので肉眼的識別は困難である。命名はドイツ、タラントTharandtの鉱物学者ハインリッヒ・ファーターHeinrich August Vater(1859―1930)にちなむ。
[加藤 昭]