六方(読み)ロッポウ

デジタル大辞泉 「六方」の意味・読み・例文・類語

ろっ‐ぽう〔ロクパウ〕【六方】

東西南北と上下との六つの方向。
六つの平面で囲まれた立体。六面体。
(「六法」とも書く)歌舞伎の特殊演技の一。先行芸能・祭礼行事などの歩き方を様式的に誇張・美化したもの。主に荒事引っ込みの芸として演じられ、飛び六方丹前六方狐六方傾城けいせい六方など種類は多い。「六方を踏む」「六方を振る」
(「六法」とも書く)江戸時代、万治・寛文(1658~1673)のころの江戸の侠客きょうかく。また、その風俗・挙動。
我が物顔の―は、よしや男の丹前姿」〈伎・浮世柄比翼稲妻

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精選版 日本国語大辞典 「六方」の意味・読み・例文・類語

ろっ‐ぽうロクハウ【六方】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 東西南北の四方と上下の称。
    1. [初出の実例]「ところどころに六方に浄土をえうけ給ひて、諸の菩薩声聞のために、説(のり)を説(とき)給へりき」(出典:法華修法一百座聞書抄(1110)閏七月八日)
    2. [その他の文献]〔観念法門〕
  3. 中世、奈良興福寺の寺院制度の一つ。学侶とともに寺内の行政・宗教行事に従う組織で、時には軍事、検断などの武力活動を行なった。興福寺本寺内の組織と末寺の組織があり、本寺の組織は興福寺境内(寺中)の戌亥丑寅・辰巳・未申の方角に各々の方角名をもつ四集団と、寺外のやはり四方角にある同名の四集団とそのほかに菩提院方・龍花院方を加えた六集団とから成り立つ。この本寺の組織に属する末寺は六方末寺とよばれる。また、この組織に分属する中臈以下の寺僧集団である六方衆をいう。
    1. [初出の実例]「於水屋社学侶・六方神水集会云々」(出典:大乗院寺社雑事記‐康正二年(1456)六月一一日)
  4. 六個の平面でかこまれた立体。
  5. ( 「六法」とも書く ) 江戸時代、万治・寛文(一六五八‐七三)の頃の江戸の侠客。また、その風俗や、挙動・伊達姿をいう。六方者。六方男達。→六方組
    1. [初出の実例]「そのほうのありさまは、人のすがたでさらになし。六方をせんとして、しゃみせん、小哥にしみこほり」(出典:仮名草子・ぬれぼとけ(1671)上)
  6. ( 「六法」とも書く ) 歌舞伎で、役者が花道から揚げ幕にはいる時の所作。手を大きく振り、高く踊るようにして歩くもの。飛び六方・片手六方・狐六方の類。
    1. 六法<b>⑤</b>〈風流四方屏風〉
      六法〈風流四方屏風〉
    2. [初出の実例]「青鷺の又白さぎの権之丞〈信章〉 森の下風木の葉六ぱう〈芭蕉〉」(出典:俳諧・桃青三百韻附両吟二百韻(1678))

六方の補助注記

については、中世の奈良興福寺の祭礼に関係した「六方衆」の動作から、あるいは中世の猿楽者が行なった「六方の儀」と称する鎮めの儀式からといった、祭祀の方面に語源を求める説が有力である。

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改訂新版 世界大百科事典 「六方」の意味・わかりやすい解説

六方(法) (ろっぽう)

歌舞伎,人形浄瑠璃の演技・演出用語。手足を大きく動かす演技。〈振る〉〈踏む〉の動詞を伴うように,手を振り,足を踏みしめることを基本にする。語義については種々の説がある。古来から祭祀や芸能の記録に〈練る〉〈走る〉と称する動きがみられ,また〈六方の儀〉と称する〈鎮め〉の儀式があった。歌舞伎の演技術としての意は,以上の伝承に立って,天地東西南北の六方向に手を動かすことと解してよかろう。前へ進むときの足は,左足と左手,右足と右手のごとく,手と同じ側を出す。すなわち〈なんば〉の動きをする。この種の演技術を指す言葉として〈丹前〉〈だんじり〉なども使われたが,しだいに〈六方〉に統一された。同時に,最初出端(では)の芸であったものが,引込みの芸に移っていった。〈丹前〉はいくらか丸味をおび,〈六方〉は荒々しい芸などともいわれるが,時代とともに変化している。1734年(享保19)の《役者三津物・大坂》は〈多門庄左衛門作弥九兵衛,鎌倉団右衛門が六法,すあたまニかま髭,白キゐしやうニ七羽烏黒き衣装ニされかうべなんどつけ,大嶋の下ばかまに,はつはの大小をくはんぬきざし,うめくやうな哥をうたひ,長々としたるつらねをやつたるを,……今は……羽折にはかまを着し,……皆所作事に仕立,出端も次第か神楽つしま,三味線も手替りを引かけ,鳴物にのつて出れば,見物の心もうきたち,切の六法計で札銭はおしからじと〉と記している。現在演じられる〈六方〉は,《勧進帳》における弁慶や《菅原伝授手習鑑》の〈車曳〉の場の梅王の踏む〈飛六方〉に代表されるように,荒事の演技と密接している。このほか,《茨木》の鬼女の〈片手六方〉,《義経千本桜》の狐忠信の〈狐六方〉,《宮島だんまり》の〈傾城六方〉,《鯨のだんまり》の〈泳ぎ六方〉などがある。また,人形浄瑠璃にも〈六方〉と称する足の動きがある。民俗芸能の中にも〈六方〉の名称がみられ,多くは足の所作を意味している。
荒事
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日本歴史地名大系 「六方」の解説

六方
ろつぽう

豊岡盆地東部、東は標高二〇一メートルの三開みひらき山と北に続く丘陵、西は円山まるやま川に囲まれる南北六キロの田園部の北半分で但馬一の穀倉とよばれるが、昭和一一年(一九三六)完工の円山川大改修までは水害の被害が大きかった。中世は新田につた庄の一部で、六方の称は新田庄の下地中分や分割知行に由来するかとみられるが、確かなことは不明(→新田庄

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「六方」の意味・わかりやすい解説

六方
ろっぽう

歌舞伎(かぶき)演出用語。六法とも書く。手足と体を十分に振り、誇張的な動作で歩く演技。勇武と寛闊(かんかつ)な気分を表すもので、荒事(あらごと)演出では重要な技法の一つになっている。語源については諸説あるが、発生的には古来の芸能の歩く芸の伝統を引くもので、祭祀(さいし)に「六方の儀」と称する鎮(しず)めの儀式があったことから、両手を天地と東西南北(前後左右)の六方に動かすことの意にとるのが妥当のようだ。ほかに、江戸初期の侠客(きょうかく)グループ六方組から出たというのは俗説だが、当時の「かぶき者」たちが丹前風呂(たんぜんぶろ)へ通うときの動作を模したものは、丹前六方とよばれ、現在でも『鞘当(さやあて)』などにみられる。荒事系の技法では、手足の極端な動きによって強さを強調しながら花道を引っ込む「飛(とび)六方」が代表的なもので、『国性爺合戦(こくせんやかっせん)』の和藤内(わとうない)、『車引(くるまびき)』の梅王丸、『勧進(かんじん)帳』の弁慶などが有名。その変形として片手六方、狐(きつね)六方、泳ぎ六方などがある。人形浄瑠璃(じょうるり)や民俗芸能にも「六方」と称する足の動きの技法が伝えられている。

[松井俊諭]

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百科事典マイペディア 「六方」の意味・わかりやすい解説

六方【ろっぽう】

歌舞伎演技の一技法。六法とも書く。手足と体を十分に振り,誇張した動作で歩くこと。古来の民俗芸能の歩き芸や足芸を洗練させたものといわれるが,語源は未詳。《勧進帳》の弁慶など荒事の役が花道の引込みで勇武のさまを見せる飛(とび)六方をはじめ,種類は多い。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「六方」の意味・わかりやすい解説

六方
ろっぽう

歌舞伎の演技のなかで,歩き方を様式的に美化した芸をいう。近世初期の侠客,六方者や伊達者などの風俗を取入れたものといわれる。両手を振りながら歩くもので,初め出端 (では) の演技であったが,享保期 (1716~36) から引込みの演技となった。種類も多いが,現在は荒事系の演技に残っている。『勧進帳』の弁慶の引込みの「飛び六方」,『義経千本桜』鳥居前の忠信の「狐六方」など。

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世界大百科事典(旧版)内の六方の言及

【歌舞伎】より

…〈傾城事〉〈怨霊事〉〈物語〉〈身替り〉〈やつし〉〈濡れ場〉〈責め場〉〈縁切り場〉〈殺し場〉〈強請場〉など,演技上の類型が劇全体における局面構成の類型と結びついている例である。劇的に高揚した一瞬に,ツケを打たせ静止したポーズにきまる〈見得〉,舞踊性の濃い〈だんまり〉や〈立回り〉,戯曲とは関係なく歩く芸そのものの迫力や美しさを見せる〈丹前〉や〈六方〉などは,写実主義による西欧近代劇と構造的に異質な歌舞伎が育て上げた独特の演技様式である。〈せりふ〉も同様で,それぞれの様式に独自の一種のリズムを持つ。…

※「六方」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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