日本大百科全書(ニッポニカ) 「ファーマコライト」の意味・わかりやすい解説
ファーマコライト
ふぁーまこらいと
pharmacolite
カルシウムの含水酸性ヒ酸塩鉱物。毒石(どくせき)ともいう。CaH[AsO4]・2H2Oという化学式からわかるように石膏(せっこう)と同構造で、チャーチ石系。自形はまれであるが、b軸方向に扁平(へんぺい)、c軸方向に伸びた長板状を呈する。多く繊維状、針状でこれが集合して集落状、鍾乳(しょうにゅう)状をなす。石灰岩あるいは苦灰岩(くかいがん)の成分や鉱脈の脈石をなす方解石とヒ素を含む鉱物の分解によって生じた正ヒ酸基(化学式[AsO4]3-)を含む溶液の反応によって生成されたもの。原産地はドイツのシュワルツワルト山地ウィチヘンWittichenのグルベ・アントンGrube Antonで、ほかにアメリカのネバダ州マンハッタンのホワイトキャップWhite Cap鉱山、フランスのアルザス地方ボージュ山脈や、チェコのボヘミア地方のヤヒモフJachymov(旧、ヨアヒムスタールJoachimsthal)などが有名である。日本では、大分県佐伯(さえき)市木浦鉱山(閉山)から産する。
共存鉱物はハイディンガー石haidingerite(CaH[AsO4]・H2O)、苦土ファーマコライトpicropharmacolite(Ca4Mg[(AsO3OH)|AsO4]2・11H2O)、レスラー石rösslerite(Mg[AsO3OH]・7H2O)、ブラス石brassite(Mg[AsO3OH]・4H2O)など。粉末状のものが多く、劈開(へきかい)は一方向に完全。劈開片は撓性(とうせい)(たわむ性質)に富むため、2枚のスライドグラスの間で粉末にして放置すると、徐々に粉末が持ち上がる。毒性物質であるので、取扱いには注意を要する。命名はギリシア語のfarmakon(毒)に由来する。
[加藤 昭 2018年7月20日]