フェート(読み)ふぇーと(英語表記)Афанасий Афанасьевич Фет (Шеншин)/Afanasiy Afanas'evich Fet (Shenshin)

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フェート」の意味・わかりやすい解説

フェート
ふぇーと
Афанасий Афанасьевич Фет (Шеншин)/Afanasiy Afanas'evich Fet (Shenshin)
(1820―1892)

ロシアの詩人地主貴族シェンシンが国外から連れてきた、ドイツ人官吏(実父)の妻を母にシェンシンの領地で生まれた。14歳で出生の秘密を知り、貴族の特権とシェンシン姓を奪われる。以来それを回復するために、軍務、領地経営、侍従職の打算虚栄に明け暮れる生の散文が営まれたが、詩的世界は忌まわしい現実(ほかに母方の精神病の形質に詩人はおびえた)とは、およそかけ離れたところに成立した。詩才の開花は1850年代なかばからで、60年代には文壇主流の社会学的文学に論争を挑み、純粋美を主張した。フェートの詩の特徴は、つかのまの感覚、とらえがたい感情の捕捉(ほそく)に心を砕き、ことばによって表せぬものを詩行の響きとリズムによって伝えようとするところにあり、シンボリズムに通ずる。代表作である一連の詩集夕べの灯』(1883~91)にはショーペンハウアーの影響もうかがわれる。

島田 陽]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フェート」の意味・わかりやすい解説

フェート
Fet, Afanasii Afanas'evich

[生]1820.12.5. ノボセルキ
[没]1892.12.3. モスクワ
ロシアの詩人。両親が正式に結婚する前に生れたため,ドイツ系の母の姓を名のり,地主である父方の姓 Shenshinに改名後もペンネームとしてフェートを用いた。彼の詩は自然美への強い共感,情緒性,非合理性,主観性などを特徴とし,描写は繊細で旋律に富んでいる。外国文学の翻訳者としても知られ,ゲーテの『ファウスト』や古典的な詩などを訳出している。代表作『抒情的パンテオン』 Liricheskii panteon (1840) 。

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