フェート(その他表記)Afanasii Afanas'evich Fet

デジタル大辞泉 「フェート」の意味・読み・例文・類語

フェート(Afanasiy Afanas'evich Fet)

[1820~1892]ロシア詩人芸術至上主義を掲げ、自然の一瞬の美をとらえた作品を残した。詩集夕べの灯」、回想記「わが回想」、ショーペンハウアーの「意志表象としての世界」の翻訳がある。

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改訂新版 世界大百科事典 「フェート」の意味・わかりやすい解説

フェート
Afanasii Afanas'evich Fet
生没年:1820-92

ロシアの詩人。フェートはドイツ人の母の姓。父はオリョール県の地主両親がロシア正教会で結婚式を挙げないうちにできた子で,母の姓を名のらされ,貴族の権利を継承できなかった。そのため差別を受け,生涯をその権利の獲得に費やし,1873年についに父の姓シェンシンShenshinを名のることに成功した。1840年モスクワ大学在学中に処女詩集《抒情詩パンテオン》を出して,ロシア詩に新しい韻律と言葉をもたらしたが,その高踏的・唯美的な詩は時流に合わず,60年代には沈黙した。80年代に入って《夕べの灯》(1883,85,88,91)と題して詩集を次々に出す。言葉で表すことのできない一瞬に明滅する美の表現を目ざしたフェートの詩の音楽は,V.S.ソロビヨフをはじめ,同時代の若い詩人やその後の象徴派に大きな影響を与えた。またショーペンハウアーの《意志と表象としての世界》の翻訳(1881)でも知られる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フェート」の意味・わかりやすい解説

フェート
ふぇーと
Афанасий Афанасьевич Фет (Шеншин)/Afanasiy Afanas'evich Fet (Shenshin)
(1820―1892)

ロシアの詩人。地主貴族シェンシンが国外から連れてきた、ドイツ人官吏(実父)の妻を母にシェンシンの領地で生まれた。14歳で出生の秘密を知り、貴族の特権とシェンシン姓を奪われる。以来それを回復するために、軍務、領地経営、侍従職の打算虚栄に明け暮れる生の散文が営まれたが、詩的世界は忌まわしい現実(ほかに母方の精神病の形質に詩人はおびえた)とは、およそかけ離れたところに成立した。詩才の開花は1850年代なかばからで、60年代には文壇主流の社会学的文学に論争を挑み、純粋美を主張した。フェートの詩の特徴は、つかのまの感覚、とらえがたい感情の捕捉(ほそく)に心を砕き、ことばによって表せぬものを詩行の響きとリズムによって伝えようとするところにあり、シンボリズムに通ずる。代表作である一連の詩集『夕べの灯』(1883~91)にはショーペンハウアーの影響もうかがわれる。

島田 陽]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フェート」の意味・わかりやすい解説

フェート
Fet, Afanasii Afanas'evich

[生]1820.12.5. ノボセルキ
[没]1892.12.3. モスクワ
ロシアの詩人。両親が正式に結婚する前に生れたため,ドイツ系の母の姓を名のり,地主である父方の姓 Shenshinに改名後もペンネームとしてフェートを用いた。彼の詩は自然美への強い共感,情緒性,非合理性,主観性などを特徴とし,描写は繊細で旋律に富んでいる。外国文学の翻訳者としても知られ,ゲーテの『ファウスト』や古典的な詩などを訳出している。代表作『抒情的パンテオン』 Liricheskii panteon (1840) 。

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