改訂新版 世界大百科事典 「フォスラー」の意味・わかりやすい解説
フォスラー
Karl Vossler
生没年:1872-1949
ドイツのロマンス語・文学研究者。ミュンヘン大学教授。彼はイタリアの哲学者B.クローチェと親しく,その美学説の影響をうけ,また一方では19世紀末から言語学の中心をなした青年文法学派(〈比較言語学〉の項を参照)の実証主義に鋭く対立した。その結果生まれたのが,彼の観念論的な言語観である。
彼は,言語の本質は精神の内的な活動,直観にあると考え,それは個人の創造であるとした。したがって彼の主たる関心は,当然文体論に向けられることになる。青年文法学派は音変化の規則性を説き,言語変化の原因を個人の外に求めたが,彼はそれを話し手の精神に求める。そこでたとえば,ラテン語の未来形の衰退の始まりは,その形の語尾と完了形の語尾との音変化による混合にあるとする説に反対して,客観的に未来のことを述べようとする精神が文化の低い俗ラテン語の話し手に失われたことによると主張する。彼にとって,言語は話し手の文化・思想の表現にほかならない。そしてその解明が《言語学における実証主義と観念主義Positivismus und Idealismus in der Sprachwissenschaft》(1904),《言語の発展に反映したフランスの文化》(1913),《言語における精神と文化》(1925)など,フランス,イタリア,スペインの文学を題材とした多くの著作の一貫したテーマであった。
執筆者:風間 喜代三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報