日本大百科全書(ニッポニカ) 「フォール」の意味・わかりやすい解説
フォール(Félix Faure)
ふぉーる
Félix Faure
(1841―1899)
フランスの政治家、第三共和政第6代大統領。ル・アーブルの実業家出身。同市の商工会議所会頭、市助役を経て、1881年穏健共和派の代議士となる。ガンベッタ内閣の植民・通産次官、ついでフェリー内閣の海軍・植民次官を歴任、タヒチ、ニュー・カレドニア、アフリカ西海岸などの植民地経営を推進した。1892年下院副議長、1894年海軍相を務めたのち、1895年1月王党派のブリッソンを破り大統領に選出された。在任中、外政ではマダガスカルの領有とロシア・フランス同盟の強化に成功したが、内政ではドレフュス事件によって国論が二分される危機に直面した。フォールは、ドレフュス再審拒否の立場をとったが、その渦中の1899年1月、エリゼ宮で脳溢血(のういっけつ)のため急死した。
[谷川 稔]
フォール(Edgar Faure)
ふぉーる
Edgar Faure
(1908―1988)
フランスの政治家。弁護士出身。第二次世界大戦中はドゴールの自由フランス運動に参加した。戦後は急進社会党に加入し下院議員(1946~1958)、上院議員(1959~1966)を務めた。第四共和政下で閣僚を歴任し二度首相を務め(1952、1955~1956)、とくに第二次内閣ではモロッコ、チュニジアの民族運動との和解に努めた。第五共和政下でふたたび閣僚を歴任し、その間1963年にはドゴール大統領の特使として中国を訪問し中国承認の道をつけた。1968年の五月革命後は文相としてフランスの高等教育の改革を主導し、大学の自治、学生参加などを実現した。1967年から1980年までふたたび下院議員を務め、1973年から1978年まで下院議長。
[平瀬徹也]
フォール(Paul Fort)
ふぉーる
Paul Fort
(1872―1960)
フランスの詩人。ランスに生まれる。18歳でパリに出て象徴派詩人たちと交わり、芸術座(現在の作品座)を設立して象徴劇運動の一翼を担う。1894年ごろから詩を書き始め、『フランスのバラード』Ballades françaises(1922~49)の総題で30巻の詩集を次々と発表した。伝承的な主題を民謡風の節回しにのせる自由で軽やかな手法は、ラフォルグやコルビエールを思わせるが、都会風ではなく、田園に生きる人々の素朴な情感を歌っている。文芸誌『詩と散文』(1905)を主宰した。
[安藤元雄]
フォール(Élie Faure)
ふぉーる
Élie Faure
(1873―1937)
フランスの美術史学者、著述家。兄レオンスは農学者、もう1人の兄ジャン・ルイは外科医として知られている。さまざまな視点の広がりをもって記述された主著『美術の歴史』全4巻(1909~21)は、あらゆる美術作品が普遍的な文明のもつ生命の息吹の表現であるという考え方を基にしており、アンドレ・マルローやルネ・ユイグらにも大きな影響を与えた。ほかに『形態の精神』(1927)などがある。
[鹿島 享]