改訂新版 世界大百科事典 「フトイ」の意味・わかりやすい解説
フトイ (太藺/莞)
soft-stem bulrush
giant bulrush
Schoenoplectus lacustris(L.)Palla ssp.validus(Vahl)T.Koyama
池や湖水に群生するカヤツリグサ科の多年草。茎は水底の泥土中に横にはった太い根茎から立ち上がり,円柱形で節がなく,高さ1.5m,幅約1cm,灰緑色をしている。たまに茎が黄と緑の縞模様になった品種があり,シマフトイf.zebrinusと呼んで観賞用とする。葉は無葉身の鞘(さや)となって,茎の根もとを包む。夏の終りに茎の頂部から数cm下方に花序を仮側生につける。花序より上部にある茎の続きにみえる部分は苞である。花序には数本の枝が出て,楕円形で褐色の小穂をつける。果実は楕円形のレンズ形で,6本の刺針がある。日本,中国,マレーシア,南北アメリカと,太平洋を囲んで広く分布している。
日本で比較的よく見かけるフトイ属Schoenoplectusの植物には,サンカクイ(三角藺)S.triqueter Palla,カンガレイS.mucronatus Palla ssp.robustus T.Koyama,ホタルイS.juncoides Palla ssp.hotarui(Ohwi)T.Koyama等がある。サンカクイは散房状の花序をもち,花序の上に突き出た茎の生長部の苞の先がとがるので,サギノシリサシの異名がある。ユーラシア大陸の温帯に広く分布する。ホタルイは水田の雑草としてよく見られるが,インド,マレーシアから中国南部に分布するイヌホタルイの亜種で,日本と中国北部にあり,イグサのような細い茎が株を作る一年草で,茎の上部に1~3個の無柄の小穂が側生状につく。カンガレイは溝の中や沼に生え,やや太目で高さ80cmほどの三稜形の茎が株立ちとなる。花序は数個の柄のない小穂が集まる。漢名を水毛花という。ユーラシアに広く分布するヒメカンガレイの亜種で,日本,中国に分布する。
カヤツリグサ科には長くまっすぐに伸びて節のない茎をもった植物が多く,フトイ属とカヤツリグサ属の多くの種類がマットを作る編み材料として利用される。フトイ属については中国では大甲蓆(だいこうむしろ)を作るためにサンカクイを栽培しているところさえあり,このほかにフトイ,カンガレイもよく利用される。スリランカやインドネシアでは,オニフトイS.grossus(L.f.)Pallaの太く三稜形をしている茎を干して扁平とし,それと,赤や黄色等に美しく染色をしたものとを混ぜて民芸調の敷物を作っている。独特の利用法としては,南アメリカのアンデス山地標高3000~4000mのチチカカ湖周辺で,原住民のシマラ族はそこに生えるフトイの1種のトトラS.californicus Palla ssp.totora(Kunth)T.Koyamaの茎を多数束ねてカヌー式のボートを作ったり,彼らの住居の屋根や壁にしたりするほか,根茎も食用にしている。インカ帝国でもこの根茎が食用とされていたことが最近明らかにされた。
執筆者:小山 鐵夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報