改訂新版 世界大百科事典 「フレマールの画家」の意味・わかりやすい解説
フレマールの画家 (フレマールのがか)
Maître de Flémalle
生没年:1378か79-1444
ネーデルラントの画家。フランクフルト,シュテーデル美術研究所所蔵の《聖布をもつベロニカ》ほか2点の来歴がリエージュ近郊のフレマール修道院に帰せられて以来,この名称が生まれた。しかし今日大半の研究者は,トゥルネー市の公式画家カンピンRobert Campinと同一人物とみなす。同市の古記録から,1427年から32年まで彼の工房にロジュレ・ド・ラ・パスチュールRogelet de la Pasture(ロヒール・ファン・デル・ウェイデンと推定される)とダレJacques Daretが弟子として働いていたことが判明。そのためフレマールの画家の作品を若き日のウェイデンの制作と解釈する説もあるが(M.J. フリートレンダー),今日あまり支持されていない。制作年代の知られている唯一の作品は38年の《ウェルルWerlの翼画》(プラド美術館)。その他の代表作は前述のフランクフルトの3点,《キリストの降誕》(ディジョン美術館),《メロードMérodeの祭壇画》(メトロポリタン美術館,クロイスターズ)など。1400年前後の宮廷的で流麗な国際ゴシック様式と決別した彼は,ヤン・ファン・アイク以前における15世紀ネーデルラント絵画の樹立者といえ,ドラマティックな宗教感情を内部に秘めた人物,モニュメンタルで重量感のある体軀や衣文表現(ドラペリー),内部建築に市民の日常性を反映させながら奥行きを配慮する点などにリアリズムの新風がうかがえる。
執筆者:森 洋子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報