フランドルの画家。トゥルネーに生まれ,ブリュッセルに没。ヤン・ファン・アイクと並ぶ15世紀前半フランドル絵画の巨匠で,ヤンの透徹した写実に対し,木彫群像を思わせる重厚な構図と涙など真率な感情の表現を特色とする画風は,後世のフランドルないし北方一般の絵画にヤンよりも大きな影響を及ぼした。1427年5月トゥルネーの画家カンピン(おそらくフレマールの画家)の工房に入門,32年8月親方となり,36年にはすでにブリュッセルの〈市の画家〉と呼ばれた。推定生年からすれば,カンピン工房への入門は27歳ころとなり,当時の慣行では異例に遅い。50年の聖年にローマを訪れたと信ぜられ,51年ドイツの神学者ニコラウス・クサヌスはファン・デル・ウェイデンがブリュッセル市役所に描いた板絵に触れて〈最大の画家〉と呼び,56年にはイタリアで世界の四大画家の一人に数えられた。
作品はいずれも年記や署名を欠くが,最大の基準作は《十字架降下》(1443以前,プラド美術館)であり,それとフレマールの画家に帰される作品との顕著な相似は,初め後者をファン・デル・ウェイデンの弟子とする説を生み,次いでフレマールの画家の作品をファン・デル・ウェイデンの若描きと考え,現在ではフレマールの画家すなわちカンピンをファン・デル・ウェイデンの師とみなすように変わってきた。これは20世紀初頭における西洋美術様式史上の大問題であったが,他方カンピン入門以前の若きファン・デル・ウェイデンの修業時代,とくにヤン・ファン・アイクとの関係については,まだまったく不明確であると言ってよい。
執筆者:前川 誠郎
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…このような活動は後のルーベンスにも見られ,組合に所属する一般の画家とは異なった特権や待遇を受けていた。これは反面また弟子が少なく,その画風が後世に伝わりにくかったことにも関係し,R.ファン・デル・ウェイデンと対照的である。ヤンの兄フーベルトHubert van Eyckの存否をめぐる問題は論者によって見解を異にするが,兄が始め,その死後(1426ころ)弟が引き継いで完成したといわれる《聖なる小羊の礼拝(神秘の小羊)》(ヘント祭壇画)(シント・バーフ教会,ヘント)には遠近法や人物の顔の表現に明らかにヤン以外の手が認められることからして,フーベルトの存在を肯定すべきものと思われる。…
…トゥールネに記録の残るカンピンRobert Campinと近年同一視されている〈フレマールの画家〉も,空間表現の整合性では同世代のファン・アイクに一歩を譲るものの,彫塑的人体把握においては同様に革新者たる資格をもつ。カンピンの弟子と推定されるブリュッセルのR.ファン・デル・ウェイデンは,中世美術の宗教的力を新しい写実主義と結びつけ,主の〈受難〉を悲しむ人々の憔悴ぶりや頰を伝う涙などをありありと描いて,劇的表現力に満ちた作品を生み出した。15世紀後半に目を移すと,代表的画家のうち人物の心理的把握に優れたH.ファン・デル・フースは地元ヘントの出身であるが,ルーバンで活動したD.バウツは北部のハールレム出身,偉大な先人たちの作風を繊細甘美で親しみやすいものへと大衆化したブリュージュのH.メムリンクは元来ドイツ人である。…
…しかし今日大半の研究者は,トゥルネー市の公式画家カンピンRobert Campinと同一人物とみなす。同市の古記録から,1427年から32年まで彼の工房にロジュレ・ド・ラ・パスチュールRogelet de la Pasture(ロヒール・ファン・デル・ウェイデンと推定される)とダレJacques Daretが弟子として働いていたことが判明。そのためフレマールの画家の作品を若き日のウェイデンの制作と解釈する説もあるが(M.J.フリートレンダー),今日あまり支持されていない。…
…多色のスレートが幾何学文様を描く大屋根に,天窓や風見,小尖塔,鉛の飾細工が優雅なシルエットを浮かび上がらせている。かつては,多数の病人を収容する大広間に続く礼拝堂に,フランドルの画家R.ファン・デル・ウェイデンの《最後の審判》の祭壇画が置かれ(現在は別室に展示),病人は寝たままその画面に向かって祈ることができた。この祭壇画外側には寄進者ロラン夫妻の肖像がある。…
※「ファンデルウェイデン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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