日本大百科全書(ニッポニカ) 「フロスト」の意味・わかりやすい解説
フロスト
ふろすと
Robert Lee Frost
(1874―1963)
アメリカの詩人。3月26日、サンフランシスコに生まれ、父の死後ニュー・イングランドに移る。ダートマスやハーバード大学に在籍したが肌があわず、さまざまな仕事を試みた。1912年、家族とイギリスに渡り、同地の自然詩人E・トマスPhillip Edward Thomas(1878―1917)らと交わり、詩集『少年のこころ』(1913)、『ボストンの北』(1914)を世に問う。やがて詩人として認められ、詩における音楽的効果を強調するイマジズム運動に参加を勧められるが孤立を貫き、1915年にアメリカへ帰ってからも、都会を離れてニュー・ハンプシャーの農場に住み、自然詩人として田園に生きる人々の生活を追求した。その間、アマースト・カレッジなど多くの大学から詩人教授として招かれたが、生涯、田園の生活を捨てなかった。『山の合間』(1916)を経て『ニューハンプシャー』(1923)でピュリッツァー賞を受け、その後も『西へ流れる川』(1928)、『遙(はる)かな山並』(1936)、『証(あか)しの樹』(1942)などで、再三受賞している。フロストの詩が一般に広く愛誦(あいしょう)されるのは、ひとつにはR・W・エマソン以来のアメリカ人が抱く自然へのノスタルジアの味わいであろう。また、彼の詩業は初期の叙情性から後期は人生省察へと深化しており、現代社会の批判者として、牧歌の効果を縦横に駆使している。詩集『証しの樹』のなかの「今日のための訓(おし)え」では、過去の時代と比べて現代の不幸が増しているわけではないと説き、過去の人と同じくこれに耐えて生くべきだと、ストイックな姿勢を示す。この古典主義的傾向は晩年の仮面劇『理性の仮面』(1945)、『慈悲の仮面』(1947)の2編にも貫かれている。1963年1月29日、ボストンで死去。
[新倉俊一]
『安藤一郎訳『フロスト詩篇』(『世界詩人全集 ディキンソン、フロスト、サンドバーグ詩集』所収・1968・新潮社)』