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仮面劇 かめんげきmasque; mask play

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

仮面劇
かめんげき
masque; mask play

演技者が仮面を着けて行う演劇。古くは宗教儀式に関連して発生,その名残りを各種の民俗芸能にとどめている。特にアジアは多様な仮面劇の伝統をもち,ダラン (語り手) とガムラン音楽によって演じられるジャワの古典劇トペン,朝鮮の山台劇山台都監劇,ラマの跳鬼舞をはじめ,多くの芸能が伝わっている。日本にも舞楽神楽,その他の民俗芸能があるが,特には仮面劇の可能性を極限まで追究したものであり,能面は美術品として高い評価を得ている。ヨーロッパではギリシアやローマの演劇で仮面が用いられ,また中世宗教劇でも,神,悪魔などに怪奇で精巧な仮面が使われた。宗教劇の衰退後,これらはドイツ,スイス地方の謝肉祭の仮装に名残りをとどめている。 15世紀から 17世紀にかけて流行したイタリアの即興喜劇コメディア・デラルテも仮面劇。近代では,G.クレイグ,W.イェーツ,E.オニールらが,様式性や神秘的象徴性を求めて仮面の効果の可能性を追究した。表現主義戯曲においても実験が試みられたことがある。

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デジタル大辞泉の解説

かめん‐げき【仮面劇】

演技者が仮面をつけて演じる演劇。古代ギリシャ劇・伎楽(ぎがく)など。

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百科事典マイペディアの解説

仮面劇【かめんげき】

仮面劇は世界各地の伝統演劇,民衆演劇の中に広がり,仮面と変装をともなう祭式や儀礼とも深く結びついている。仮面そのものが日常世界への非日常的存在の出現であり,その起源を語る神話や儀式ととともに演劇的な構造を内包しているからである。
→関連項目ジョンソンミドルトン

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世界大百科事典 第2版の解説

かめんげき【仮面劇】

イタリアのコメディア・デラルテ,日本の能,ギリシア悲劇等,確立した劇のジャンルとして存在するもの以外にも,仮面劇の裾野は世界各地の伝統演劇,民衆演劇の中に広がり,また仮面と変装を伴う儀礼と交錯している。仮面そのものが日常世界への非日常的存在の出現であり,その起源を語る神話と結びついて劇的な構造を内包しているのである。ギリシア悲劇,能等も,その起源は祭礼あるいはイニシエーションの儀礼に結びつくものであり,こうした仮面劇と儀礼の親縁性は,インド各地,南アジアに見られる叙事詩ラーマーヤナ》に基づく仮面劇にも見いだされる(叙事詩は,主人公ラーマの王としてのイニシエーションの行程をたどるのである)。

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大辞林 第三版の解説

かめんげき【仮面劇】

登場する演技者が特定の性格を表す仮面をつけて演ずる劇。古代ギリシャ悲劇、ルネサンス期イタリアの即興劇コメディア-デラルテ、日本の能など。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

仮面劇
かめんげき

登場人物の全員、あるいは一部が仮面をつけて演じる劇。仮面は本来、死者の霊魂や自然界の諸力の依代(よりしろ)としての役割をもっていたが、そこに宿った魂や力がそれをかぶる人間にのりうつるとされるところに他の依代にない仮面の特徴がある。したがって、劇に仮面をつけた人物が登場するとき、それは神、悪霊、死者、事物の精など日常生活を超えた他の世界の存在の出現を表すことが多く、呪術(じゅじゅつ)や宗教儀式と未分化であった古い形の演劇ほど仮面を使用したといえる。しかし、俳優が自己でないものに変身し、その行動によって現実を超えた世界を創造しようとする営みが演劇の根底にある限り、仮面がメーキャップや変装にとってかわられる近世以降の演劇にも、その精神がまったく失われたわけではない。[安堂信也]

西洋

西洋では、紀元前5世紀を頂点とする古代ギリシア劇で初めて仮面が演劇に用いられた。それ以前にエジプトやクレタ島においても仮面を使用した芸能があったともいわれるが、それらは宗教儀式や祭礼の一部であって、独立した仮面劇とは認めがたい。ギリシア悲劇は、獣の皮をまとってサティロスを演じた人々が酒神ディオニソスをたたえるために行った円舞合唱に始まったとされるが、その初期に神を表した仮面は、悲劇の誕生とともに神話時代の半神としてのヒーローたちを演じるのにも用いられるようになった。革や布に彩色を施した被(かぶ)り物のそれらの仮面は、本質的には演ずる者の姿や声を拡大して超人的な存在感を与え、それによって劇的宇宙の現実からの超越性と演劇の祭儀性を保証するものであったが、他方、それぞれの仮面の容貌(ようぼう)の個性化によって、1人の俳優が多くの役を兼ねることも可能にした。時代が下ると仮面の特徴はしだいに誇張され、悲劇面では激情と苦悩にゆがんだ表情により強烈な印象を与えることが目ざされ、喜劇ではグロテスクで滑稽(こっけい)な道化面が役柄の典型化を進めるのに役だった。古代ローマもそれを受け継いだが、演劇が祭儀性を忘れ悲劇が衰退するとともに、悲劇面は力を失い、それにかわって、ギリシア風の喜劇面よりさらに怪奇な仮面を用いる、土俗的で風刺を主とする笑劇アテルラナが隆盛した。
 その伝統は、中世宗教劇に登場する悪魔たちの扮装(ふんそう)や謝肉祭行列の道化面を経て、ルネサンス期イタリアのコメディア・デラルテに受け継がれる。この即興喜劇では、恋人役の男女など一部を除いて、おもな登場人物のほとんどが、かぶるのではなく顔全体あるいは上半分を覆う仮面(厚手の革製か薄い木彫り)をつけ、それによってつねに変わらぬ役柄とその性格を表した。この仮面劇はヨーロッパ全土に大きな影響を与えたが、演劇が主として人間社会の相克や心理的葛藤(かっとう)を描くようになる近世から、リアリズムが芸術の主流となる近代に至って、その伝統も失われ、わずかに宮廷舞踊劇や仮装舞踏会に用いられる黒い衣製の目だけを隠すマスクにその名残(なごり)をとどめるのみとなる。しかし、20世紀に入り、演劇が日常性の単なる模写を超えて真の演劇性を回復し、超越的な世界の現前によってその祭儀性を目ざすことが期待されるようになると、ゴードン・クレイグ、コポー、オニールからブレヒトやジュネまで、多くの前衛的演劇人によって仮面の重要性が再認識され、今日もなお新しい意味の優れた現代的仮面劇が上演されることも少なくない。[安堂信也]

東洋

仮面が失われてしまった西洋の演劇に比べ、東洋は仮面劇の宝庫である。東洋の仮面劇はきわめて舞踊的な色彩が強く、仮面舞や仮面舞劇とよぶほうが的確と思われるものが多い。インド、ネパール、ブータン、チベット、モンゴル、スリランカ、インドネシア、中国、朝鮮半島、日本などに広く多様に分布する。形態的にみると、神話伝説にちなんだ神事芸能の域にとどまっているものと、そこから演劇的な発展を遂げたり、遂げようとしているものとの2種に大別できる。前者にはインドのチョウ、ネパールのマハカリ・ピャクン、チベット系の跳舞、インドネシアのトペンやバロンなどを、後者にはスリランカのコーラム、朝鮮の仮面舞劇(タルツムノリ)、日本の能などが含められよう。もちろん両者間には形態的に有機的な交流があり、両者とも原則的には女人禁制の男性中心の仮面劇である。
(1)インド 東部のプルリア、シドナフール、セライケラなどに「チョウ」とよぶ仮面舞踊があり、それを演じる地域は500を超え、地域ごとに特色がある。プルリアのチョウは『マハーバーラタ』『デービー・マーハトミヤ』などの物語から素材を得た荒々しい男女神の戦闘場面が多い。セライケラのチョウは戦士の舞踊に由来するといわれ、それに民族舞踊が加わり、男女の神々が愛を語り、優雅に舞うなど娯楽性が豊かである。
(2)ネパール 大母神ナバ・ドゥルガーの偉大さをたたえる仮面祭があり、1981年(昭和56)に来日した「マハカリ・ピャクン」(舞踊)もその一つ。ドゥルガーの化身であるマハカリ、マハラクシュミ、クマリの3女神が魔神兄弟と戦って勝利を得る内容で、インドの『デービー・マーハトミヤ』の古典に基づく。それにネパール伝説に登場する魔物ラケーやキャクなどが加わりネパール化されている。
(3)中国 少数民族であるモンゴルや満州族などがラマ廟(びょう)祭で跳舞(正称は打鬼)を奉納した。髑髏(どくろ)型の白と黒の仮面をつけた鬼が激しく跳ね踊って邪鬼を追い払うチベット仏教(ラマ教)の神事芸能の一つで、旧正月に行われ、チベット仏教の本拠地であるチベットで盛んである。漢民族においては、仮面劇は絶え、京劇などの唱劇で隈取(くまどり)の形でそのおもかげを伝えており、このほかに各地では旧正月に獅子舞(ししまい)が盛んである。
(4)スリランカ シンハラにドビルとコーラムの二つの仮面舞が伝承されている。ドビルは病気治癒のための神事で、舞い手たちが病神のヤガー(悪霊)の仮面をつけて祭場に現れて踊りながら霊媒者と語り合う。コーラムは、前半では洗濯屋や太鼓打ちなどのカーストたちと王や役人、警官などの支配層が絡み合うコミカルで風刺のきいた仮面劇を演じ、後半では正邪の神々や魔物などが登場する神界に転じる。
(5)インドネシア ジャワ島を中心に数種のトペン(仮面・仮面劇)があり、バリ島にバロンがある。トペンは『パンジ』という古い物語にちなんだワヤン・トペンから派生した。パンジ王子は結婚前夜花嫁のチョンドロ・キロノを魔神にさらわれ、放浪のすえ取り戻す。この原話を基に幾通りものトペンが生まれ、現在はクロノ・トペンが知られている。バリ島には獅子に比定される魔物のバロンの僻邪進慶(へきじゃしんけい)の仮面舞がある。
(6)韓国 中部から西部に山台劇(サンデノリ)系、南部の慶尚道地方に五広大(オクワンデ)系、東部にクッ(巫祭(ふさい))である別神祭(ビョルシンジェ)など多様な仮面舞劇(タルツムノリ)が演じられている。神事的な色彩が薄く、物語は人間界が中心で、僧侶(そうりょ)や両班(ヤンバン)(支配層)、退廃的な庶民などを痛烈に風刺した痛快な劇である。舞踊を中心に台詞(せりふ)、歌、才談(チェダム)(頓智(とんち))などで構成されている。このほかに北青(ブクチョン)獅子舞がある。
 以上のほかに、ブータンの寺院では僧侶を中心とする仮面劇、またカンボジアやタイなどの東南アジアにはクメール系の仮面舞がある。
 また、豊富な仮面をもつアフリカやオセアニアにも当然仮面の民族舞踊が現存するが、宗教的祭祀(さいし)などと混然一体となっており、それらの研究はまだ進んでいない。
 日本においては、大陸から伝来した伎楽(ぎがく)(現在は絶え、面だけが残っている)、舞楽(ぶがく)をはじめ、散楽(さんがく)や田楽(でんがく)などの先行芸能の集約大成された伝統芸能である能楽がある。シテ方にのみ能面をかけさせることで高度な象徴性をもたせた能は、世界の仮面劇のなかで異彩を放っている。ほかにも、神楽(かぐら)をはじめとする多くの仮面を使用する民俗芸能が全国各地に伝承されている。[金 両 基]
『国際交流基金編『変幻する神々――アジアの仮面』(1981・日本放送出版協会) ▽山城祥二編『仮面考』(1982・リブロポート)』

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世界大百科事典内の仮面劇の言及

【イギリス演劇】より

…どちらにも女優は登場せず,女の役は声変り前の少年が演じたが,私設劇場には少年だけの劇団が出演することもあった。また,17世紀に入ると,宮廷や貴族の屋敷ではイタリアの影響を受けて複雑な装置を用いる仮面劇が素人の出演者によって行われるようになった。1642年,ピューリタン革命のさなかに議会が劇場の閉鎖を命じたため,イギリスにおける本格的な劇の上演はしばらくとだえた。…

【エリザベス時代】より

…彼らの作品は移り変わる観客の嗜好と人気の波にもまれつつ,時に10に及ぶ数の劇場で上演され続けたが,ピューリタン革命勃発後の1642年にロンドン中の劇場が閉鎖されることになって,エリザベス朝演劇はその幕を閉じた。なお,こうした大衆演劇とは別に,おもに宮廷や貴族の邸宅でしばしば上演された仮面劇もまた,この時代に完成を見たもう一つの演劇的ジャンルとして,無視することはできない。【笹山 隆】。…

【朝鮮演劇】より

…百済も同じく大陸系統の散楽百戯の影響をうけたが,特に〈伎楽〉を7世紀初めに日本に伝えたことは特記すべきであろう。この百済の伎楽が現在の韓国における仮面劇の母体であるとの説もある。新羅は7世紀の後半に三国を統一し,加羅(伽倻),百済,高句麗などの舞楽を集成し,剣舞,無(むがい)舞,処容舞,五伎などの形で後世に伝えた。…

【バレエ】より


[歴史]
 ダンスの歴史は人類の発生とともに古いが,バレエはルネサンスのころ始まったと考えられている。14~15世紀によくみられた無言劇や仮面劇,幕間狂言(インテルメッツォ)などからイタリアで発生したものであるということは通説となっている。当時の無言劇は,仮装で仮面をつけた数人によって演じられ,観衆を交えずに彼らだけで踊られた。…

※「仮面劇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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