改訂新版 世界大百科事典 「ブラックストン」の意味・わかりやすい解説
ブラックストン
William Blackstone
生没年:1723-80
イギリスの法律家。1744年にオックスフォード大学のフェロー,46年には弁護士となったが,実務では成功せず,53年に教職に力点を移した。それまでイギリスの大学ではローマ法と教会法の講義はあったが,彼が初めて英法の講義を試み(1753),58年イギリスの大学で初めて英法の教授(オックスフォード大学)となった。このときの講義案が後の《英法釈義》の下地になっている。この学界での大成功を背景に,61年王室顧問弁護士,63年王妃付法務官,下院議員等に選ばれている。66年実務界で成功したため大学の職を辞した。70年には人民訴訟裁判所裁判官,その後王座裁判所裁判官を経て再び人民訴訟裁判所裁判官となり,10年間裁判官であった。しかし裁判官時代の彼の活躍は目だっていない。その著書《英法釈義Commentaries on the Laws of England》4巻(1765-69)は,法を学問的に処理するというよりは,むしろ英法全体の基本を,たとえぼんやりとであれ,体系的にわかりやすく把握している。したがって,ときには厳密な概念に代えてあいまいな文学的表現を用い,ために誤りを犯している場合もあり,また憶病とも思えるほどに既存の法秩序を肯定しており,これらの点はJ.ベンサム,J.オースティンの非難するところである。しかし,この書物の範囲の広さ,わかりやすさ,叙述の流暢さ,あるいはまた類書のなさ等が,この本を有名にしており,とくに法専門家以外の人々への本書の影響力はきわめて大きなものがある。アメリカでの英法の継受の功労者といわれる。
執筆者:小山 貞夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報