ヘスペリデス
Hesperides
ギリシア神話で,世界の西の涯の園に住む乙女たち。その名は〈宵の明星(古代ギリシア語でヘスペロスhesperos,ラテン語のウェスペルvesperと同源)の娘たち〉の意。ニュクス(〈夜〉)の娘とも,ティタン神アトラスの娘ともされ,数も3人,4人,7人の諸説があって一定しない。〈ヘスペリデスの園〉には,ガイア(〈大地〉)がゼウスとヘラの結婚祝いに贈った黄金のリンゴのなる木があり,彼女たち姉妹は竜のラドンLadōnの助けを得てそれを守っていた。英雄ヘラクレスの12功業のひとつはそのリンゴを入手することであったと伝えられる。イギリスの抒情詩人ヘリックに《ヘスペリディーズ》(1648)と題した詩集がある。
執筆者:水谷 智洋
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ヘスペリデス
へすぺりです
Hesperides
ギリシア神話で、「夕べの娘たち」の意味の下位神格。ニクス(夜)の娘、あるいはゼウスとテミスの娘、アトラスの娘など、系譜は諸説あって定まらない。またその数も3人から7人の間とされる。ゼウスとの結婚の祝いに女神ガイアから黄金のリンゴを贈られたヘラは、これを園に植えてヘスペリデスと竜のラドンに厳重に監視させた。これが「ヘスペリデスの園」であるが、その場所も世界の西の果てオケアノスのかなた、またはヒペルボレオイ(極北人)の国、アトラス山脈あたりなどとさまざまに説かれる。ローマ時代のベレニケ(ベンガジ)も「ヘスペリデスの園」とよばれた。なおここのリンゴは、ヘラクレスによって一度盗み出された。
[中務哲郎]
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ヘスペリデス
Hesperides
ギリシア神話の「夕べの娘たち」。ヘシオドスによれば,エレボスとニュクスの娘だが,ゼウスとテミス,あるいはアトラスの娘とする説もある。美声をもち,世界の西のはてにある楽園で,竜のラドンとともに黄金のりんごのなる樹の番をしていた。この樹は,ガイアがヘラのために,ゼウスとの婚礼を祝って生え出させたものという。通常,アエグレ,エリュテイア,ヘスペラレトゥサの3人とされるが,4人または7人とする説もある。
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「ヘスペリデス」の意味・わかりやすい解説
ヘスペリデス
ギリシア神話の宵の明星ヘスペロス(ラテン名ウェスペル)の娘たち。西の涯の園(〈ヘスペリデスの園〉)に住み,ガイアがゼウスとヘラの結婚祝いに贈った黄金のリンゴがなる木の番をする。竜ラドンがこれを助けているという。
→関連項目ヘラクレス
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世界大百科事典(旧版)内のヘスペリデスの言及
【ヘラクレス】より
…ヘラクレスはこの旅の途中,今のジブラルタルに至ったとき,ヨーロッパとアフリカの両岸に向かい合った巨大な2本の柱〈ヘラクレスの柱〉を建てた。(11)世界の西の果てにある[ヘスペリデス]の園から黄金のリンゴを取ってくること。園の近くに蒼穹を肩で支えている巨人神[アトラス]がいたので,ヘラクレスは彼にかわって蒼穹を背負い,その間にアトラスがリンゴを取ってきた。…
【楽園】より
…東洋の伝承でいえば,[蓬萊](ほうらい),[竜宮],補陀落(ふだらく)([補陀落渡海])などがこれにあたる。西洋の伝承では,古代ギリシア人が遠く太陽の沈む西方洋上に,祝福された死者の国ヘスペリアHesperia(西方の国)を想像し,とくに〈[ヘスペリデス]の園〉の伝説を生み出した。これは西の空に輝く宵の明星ヘスペロスHesperosの娘たち(ヘスペリデス)が,1匹の竜に助けられつつ黄金のリンゴを守る,常春(とこはる)の園のことである。…
【リンゴ(林檎)】より
…ギリシア神話で女神ガイアはゼウスとヘラの結婚式の贈物に黄金の実をつけるリンゴの木を贈っている。このリンゴの木は,のちヘスペリデスの園に植えられ,英雄ヘラクレスが取りに赴いた。また争いの女神エリスが〈いちばん美しい女神へ〉といって投げこんだ黄金のリンゴは,三女神(ヘラ,アテナ,アフロディテ)の美の競演をひき起こし,トロイア戦争の遠因となった。…
※「ヘスペリデス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」