ラドン

デジタル大辞泉 「ラドン」の意味・読み・例文・類語

ラドン(radon)

希ガス元素の一。同位体はすべて放射性。単体は不活性な無色の気体で、気体中で最も重い。元素記号Rn 原子番号86。質量数222、220、219の3種類がある。

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精選版 日本国語大辞典 「ラドン」の意味・読み・例文・類語

ラドン

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] radon ) 第八六番元素。記号 Rn 天然には、質量数二一九、二二〇、二二二の三種の同位体があり、いずれも放射性である。特に質量数二二二の同位体は寿命が長く、狭義では、この同位体をさす。無色、単原子分子の気体で、希ガス元素に属し、化学的にはきわめて不活性である。〔児童物理化学物語(1928)〕

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化学辞典 第2版 「ラドン」の解説

ラドン
ラドン
radon

Rn.原子番号86の元素.電子配置[Xe]4f 145d106s26p6の周期表18族希(貴)ガス元素.安定同位体のない元素のため,原子量が与えられていない.質量数195~228までの同位体が知られている.すべて放射性.222Rn がもっとも安定で半減期3.8235 d.222Rn がラジウムから発生する放射性気体として一番最初に発見された(1899年,P. and M. Curie(キュリー)夫妻).1900年にE. Rutherford(ラザフォード)がトリウムから発生する放射性気体(220Rn)を発見しemanationとよんだ.同年,F. Dornが両者の発見を確認し,ラジウムから発生する気体をradium emanation,トリウムからのものをthorium emanationとした.引き続きF.O. GieselとA. Debierneが同様にアクチニウムから 219Rn(actinium emanation)を発見した.慣用名として 222Rn をエマネーションまたはラジウムエマネーション220Rn をトロン,219Rn をアクチノンとよぶこともある.ラドンは天然に存在する三つの崩壊系列(ウラン,トリウム,アクチニウム)の中間に生成するので,これらの元素に伴って微量存在する.
さまざまな名称が提案されたが,IUPACは1923年にラドンを選択した.もっとも重い気体元素.融点-71 ℃,沸点-61.8 ℃.密度9.73 g L-1(気体,0 ℃),4.4 g cm-3(液体,-62 ℃).気体と液体は無色,無臭.固体は黄色から橙色(液体空気温度)のりん光を放つ.水に可溶,有機溶媒に易溶.近年まで化学的に不活性と思われていたが([別用語参照]希ガス化合物),F2 またはClF3との反応でRnF2,BrF5を溶媒としてNiF2の存在下250 ℃ でRnF4,RnF6などフッ化物をつくることが知られており,希ガス中でもっとも反応性に富むと考えられている.
医療用放射線源として用いられる.近年周辺の土壌・岩石あるいはコンクリートなど,建築材料からの建物内のラドンの蓄積が,吸入による内部被ばくの可能性として取り上げられている.旧科学技術庁委託の調査によると,わが国の屋内ラドン濃度平均値は15.5 Bq cm-3 と推定されており,諸外国の数値の数分の一から数千分の一と低いことから,危険性は少ないと判断されている.アメリカの屋内ラドン濃度平均値は48 Bq cm-3 で,タバコにつぐ第二位の肺がん発がん原因とされる.放射性同位元素等による放射線障害防止に関する法律施行令「同位元素の数量等を定める件」(平成17年改正)によると,222Rn の空気中の濃度限界3×10-5 Bq/cm3.[CAS 10043-92-2]

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改訂新版 世界大百科事典 「ラドン」の意味・わかりやすい解説

ラドン
radon

周期表0族に属する希ガス元素の一つ。1898年キュリー夫妻はラジウムの化合物の周囲の空気が放射性をもつことを見いだし,これをドルンF.Dornが1900年ラジウムから発生する気体によるものであることを明らかにした。さらにイギリスのE.ラザフォードら,F.ソディ,W.ラムゼーは,この気体が不活性ガスで,周期表中0族に属することを確かめ,ラジウムエマネーションradium emanationと呼んだ。またラムゼーはグレーR.W.Grayとともに比重の測定からそれまでに知られた最も重い気体であることを示し,ガラス管中で気体を液化するとリン光を発するのでラテン語のnitere(輝く)にちなんでニトンnitonと呼ぶことを提唱したが,1923年国際会議でラジウムから変脱生成するものということからラドンの名称が採用された。天然には,219Rn(アクチノンactinonともいい,Anと書く。アクチニウム系列),220Rn(トロンthoronともいい,Tnと書く。トリウム系列),222Rn(ウラン系列)の3種の同位体が存在する。このうち222Rnが普通にいうラドンであって,226Raのα崩壊によって生じ,最も寿命が長い。半減期3.825日で,α崩壊してRaAとなる。空気中,天然水中にはこのラドンが微量含まれている。またウラン鉱物中にも存在し,鉱泉,温泉,地下水などにも溶解している。最初に発見されたのもこのラドンである。

 単原子分子からなる無色の気体。水,二硫化炭素,その他の溶媒に溶けるが,エーテル,アルコールなどの有機溶媒にとくによく溶ける。活性炭やシリカゲルに吸着されるが,加熱によって放出される。化学的にはきわめて不活性でほとんど化合物をつくらないが,フッ化物RnF2の生成が推定されている。化学結合のないクラスレート化合物としては2C6H5OH・Rnが知られている。ラドンはラジウム化合物から発生する気体を集めて得られるが,不純物として含まれる空気,水蒸気,二酸化炭素などを除き,液体空気などで冷やして固体として取り出す。ヘリウムが混在してもこれは気体で残る。γ線源として用いられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラドン」の意味・わかりやすい解説

ラドン(元素)
らどん
radon

周期表第18族に属する希ガス元素(貴ガス元素)の一つ。原子番号86、元素記号Rn。すべての同位体が放射性である。19世紀末から20世紀初頭にかけて放射性元素の研究が発展した際、トリウム、ラジウム、アクチニウムのそれぞれの化合物が放射性気体を放出する事実が知られたが、それらが周期表でキセノンの下に位置する希ガス(貴ガス)であることが確認されてラドンの元素名が与えられたのは1923年である。トリウム、ラジウム、アクチニウムの化合物から発する質量数220、222、219の同位体は、それぞれ別にトロン、ラドン、アクチノンともよばれることがある。

 これら3種の同位体は、それぞれウラン・ラジウム系列、トリウム系列、アクチニウム系列での崩壊生成核種であり、天然に極微量存在し、これらを含めて多くの半減期の短い放射性同位体が知られている。理論的にはキセノンよりも電子移動を伴う化合物の生成は容易であるが、半減期が短いために、単離された化合物としては包接化合物しか知られていない。

[岩本振武]



ラドン(データノート)
らどんでーたのーと

ラドン
 元素記号  Rn
 原子番号  86
 原子量   (222)※
 融点    -71℃
 沸点    -61.8℃
 密度    9.73g/dm3(0℃,1気圧)
 結晶系   固体,立方
 臨界温度  104.5℃
 臨界圧   62.4気圧
 元素存在度 海水 0.6×10-12μg/dm3
※括弧内の数値は原子量ではなく、同位体質量数の一例


ラドン(ギリシア神話)
らどん
Ladon

(1)ギリシア神話で100の頭をもつ竜。フォルキスとケト、あるいはティフォンとエキドナの子。ヘスペリデスの園で黄金のリンゴを見張っていたが、これを盗みにきたヘラクレスにより殺された。(2)アルカディアを流れる美しい川、またその河神。オケアノスとテティスの子。一説にはダフネの父ともいう。ヘラクレスは、アルテミスの聖なる鹿(しか)をこの川のほとりで捕らえ、また牧神パンの急追を逃れたニンフのシリンクスは、この川の岸辺で葦(あし)に変身した。そしてパンは、その葦でシリンクス(葦笛)をつくった。

[中務哲郎]

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百科事典マイペディア 「ラドン」の意味・わかりやすい解説

ラドン

元素記号はRn。原子番号86。融点−71℃,沸点−61.8℃。希ガス元素の一つ。エマネーションとも。無色の放射性気体。天然にはラドン219(アクチノン),ラドン220(トロン),ラドン222(ラジウムエマネーションとも)の3種が存在。ラドン222が最も寿命が長く(半減期3.825日),普通にはこれをラドンという。水に可溶。化学的には不活性。γ線源として用いられる。天然にはウラン鉱物中,鉱泉などに存在。ラジウム塩水溶液から発生する気体を分離して得る。1898年キュリー夫妻がラジウム化合物に触れた空気が放射能をもつようになることに気づき,これを1900年ドルンがラジウムから発生することを明らかにし,次いでラザフォード,ソディ,ラムゼーらが希ガス元素であることを確かめた。
→関連項目エマネーションラジウム療法

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ラドン」の意味・わかりやすい解説

ラドン
radon

元素記号 Rn ,原子番号 86。周期表 18族,希ガス元素の1種。天然に存在するのは質量数 222 (半減期 3.8日,狭義のラドン) ,219 (3.9秒,アクチノン) ,220 (51.5秒,トロン) の3核種で,地殻存在量は 4×10-17重量% である。このほか 18種の人工放射性核種が知られている。単体は無色無臭の単原子気体で,沸点は-62℃,密度 9.73g/l (0℃) 。γ線源として癌治療に使われる。ニトン,ラジウムエマネーション,エマネーションの名でも呼ばれる。

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デジタル大辞泉プラス 「ラドン」の解説

ラドン

東宝特撮映画に登場する巨大な翼竜。初登場作品『空の大怪獣ラドン』(1956)での全長は50メートル。翼長は120メートルで超音速で飛行する。古代トンボの幼虫、メガヌロンを餌とする。

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栄養・生化学辞典 「ラドン」の解説

ラドン

 原子番号86,原子量222.0176,元素記号Rn,18族(旧0族)の元素.希ガスの一つ.

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世界大百科事典(旧版)内のラドンの言及

【ヘスペリデス】より

…ニュクス(〈夜〉)の娘とも,ティタン神アトラスの娘ともされ,数も3人,4人,7人の諸説があって一定しない。〈ヘスペリデスの園〉には,ガイア(〈大地〉)がゼウスとヘラの結婚祝いに贈った黄金のリンゴのなる木があり,彼女たち姉妹は竜のラドンLadōnの助けを得てそれを守っていた。英雄ヘラクレスの12功業のひとつはそのリンゴを入手することであったと伝えられる。…

【エマネーション】より

…エマナチオンともいう。天然に存在するものはラドンの同位体222Rn(ラドン),220Rn(トロン),219Rn(アクチノン)であり,その他人工的につくられたアルゴンの同位体37Ar,41Ar,クリプトンの同位体87Kr,キセノンの同位体133Xe,135Xeなどがそうである。キュリー夫妻は放射能の研究中,ラジウム化合物の周囲の空気が放射性を示すことに気づいたが,E.ラザフォードはこれが希ガス元素に属する放射性気体によるものであることを確かめ,これをラジウムエマネーションとよんだ(のちに,ラジウムから変脱生成するものだということでラドンの名称が与えられた)。…

※「ラドン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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