日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘチマ」の意味・わかりやすい解説
ヘチマ
へちま / 糸瓜
[学] Luffa aegyptica Mill.
Luffa cylindrica Roem.
ウリ科(APG分類:ウリ科)の一年生つる草。茎は分枝して十数メートルになる。葉の付け根から巻きひげを出して、他物に絡まる。葉は掌状に5~7裂し、上方の葉ほど切れ込みが深く、葉身は長さ約20センチメートル、葉柄もほぼ同長。初夏から秋口まで開花し、しだいに上方に咲いていく。雌雄異花で、雄花は各葉腋(ようえき)に数個穂状につき、雌花はところどころの葉腋に単生する。雌雄花ともに黄色の5裂の合弁花で、早朝に咲く一日花である。果実は濃緑色で長さ30~60センチメートル、長果の品種では1~2メートルになる。太さは8~12センチメートル。果肉の中の繊維は、果軸に直角に果実を取り巻く方向に発達し、縦方向の繊維とともに厚く密な網状となる。内部には扁平(へんぺい)な種子が多くあり、秋に熟して種子は黒色となる。草姿や風流な形を楽しんで、庭園の棚や柵(さく)に栽植される。また若果を果菜専用とする食用ヘチマもあり、鹿児島県以南、中国や熱帯アジアに栽培される。成熟した果実は水に浸しておくと果皮と果肉が腐って網状の繊維だけが残る。これを俗にヘチマの皮とよび、入浴用のたわし、圧搾して靴の底敷きなどにする。また秋口に茎を地上30センチメートルほどで切断すると溢液(いつえき)がおこり、切り口を瓶に挿しておくと数日で1本当り500~2000ccの液体がとれる。これがいわゆるヘチマ水で、化粧水として昔から賞用される。
[星川清親 2020年2月17日]
料理
沖縄では、ヘチマは夏の野菜として欠かせない。若い人にも人気があり、調理用途が多く、酢の物、和(あ)え物、炒(いた)め煮など、いろいろくふうされている。とくにヘチマと木綿豆腐をいっしょにしたみそ煮は代表的な料理である。また風邪(かぜ)をひいたときにはヘチマを生食するなど、民間療法に利用される。
[渡口初美 2020年2月17日]
文化史
原産地はインド、西アジア、アフリカとする3説がある。インドでは古くから果肉、花、枝葉を咳(せき)や痰(たん)の薬に用いた。『本草綱目(ほんぞうこうもく)』によれば、中国では唐、宋(そう)以前はみられなかったが、16世紀には南北いずれにも広がり、普通の野菜で、花、芽、つるが食され、若い果実は皮をむいて煮食されたとある。また、成熟果の繊維を靴の敷物に利用したことも記されている。中国名の糸瓜(スークワ)はその繊維に注目した名である。日本へは江戸時代の初めに渡来した。和名は、糸瓜(いとうり)から「とうり」に変化し、「と」はいろはの「へ」と「ち」の間(ま)にあるのでヘチマとなったといわれる。沖縄の方言のナベラは鍋羅(なべら)の意味で、羅(あ)み織られているような繊維で鍋(なべ)を洗ったことにちなみ、別の中国名、洗鍋羅(シークオロー)からの派生と考えられる。
[湯浅浩史 2020年2月17日]