血液の凝固を阻止する薬剤で、抗凝固薬あるいは血液凝固阻止剤ともいう。肺塞栓(そくせん)や静脈血栓などの血液の凝固性が異常に亢進(こうしん)している疾患を防止したり、血液透析や輸血、血液検査時に用いられる。血液凝固は次のような機序(メカニズム)による。すなわち、血液中のトロンボプラスチンがカルシウムイオンによって活性化され、プロトロンビンからトロンビンとなり、このトロンビンが血漿(けっしょう)フィブリノゲンに作用してフィブリンとする。フィブリンは絡み合って血栓をつくる。したがって、抗凝血薬の機序としては次のようなものがある。
(1)カルシウムイオンと結合してこれを除去するもの クエン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)。
(2)プロトロンビンの生成を阻害するもの ワルファリン系のワルファリンカリウムやジクマロール、インダジオン系のフェニルインダジオン。
(3)トロンビンの作用を抑制するもの ヘパリンナトリウム、ヘパリンカルシウム、デキストラン硫酸製剤、ヘパリノイド。
(4)フィブリンを溶解するもの ストレプトキナーゼ、ストレプトドルナーゼなどの酵素製剤。
クエン酸ナトリウムやヘパリンは輸血時の血液凝固阻止、または保存血など血液製剤に用いられる。ヘパリンはそのほか血栓・塞栓症に、また手術時や血液透析時の血液凝固阻止を目的として使用される。ワルファリンは血栓・塞栓症の予防と治療に内服で使用される。デキストラン硫酸はナトリウム塩として脂質異常症、制がん剤作用増強などに注射で用いられる。ヘパリノイドには末梢(まっしょう)血管循環促進作用を有するヒルドイド軟膏(なんこう)があり、血栓性静脈炎やケロイドの治療と予防などに用いられる。
[幸保文治]
血液の凝固を阻止する薬で,血液凝固阻止薬ともいう。血液凝固の機構には延べ10種以上の因子が関与して重要な役割をになっているが,それらの因子のいずれかを取り除いたり因子の活性を抑制することによって血液の凝固を防いだり凝固時間を延ばすことができる。
輸血や血沈その他の血液検査に際して血液の凝固を防ぐために加えるクエン酸ナトリウムは,血液凝固に不可欠な因子であるカルシウムイオンCa2⁺を除去することによって効果を発現する。また,手術後の血栓形成の予防,血栓性静脈炎,冠動脈血栓などのように一部の血管で血液の凝固が起こる病気を防ぐために使われるものとしては,ヘパリンやクマリン系,インダンジオン系の経口抗凝血薬などがある。
ヘパリンは哺乳類の肝臓や肺から抽出される平均分子量約1万5000の酸性ムコ多糖体で,血液中に存在するアンチトロンビンⅢと呼ばれる血清グロブリンを活性化して,それが血液凝固因子,とくにⅩaおよびトロンビン(Ⅱa)と結合して不活性化するのを促進するが,服用では効かず,静脈内注射または筋肉内注射を行う。速効性であるが効力の持続は短い。
経口抗凝血薬としては,クマリン系としてワルハリン,ジクマロールが,インダンジオン系としてフェニンジオン,ジフェナジオンなどがある。いずれも化学構造がビタミンKと類似であり,ビタミンKと拮抗する薬理作用をもつ。ビタミンKが肝臓で血液凝固因子(Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹなど)の生合成を促進するのに対して,抗ビタミンK作用により抗凝血作用を発現するのである。作用の発現は遅いが持続は長い。ただし,体外で血液に直接加えても凝血を抑えることはない。
→血液凝固
執筆者:粕谷 豊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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