日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘラー」の意味・わかりやすい解説
ヘラー(Hermann Heller)
へらー
Hermann Heller
(1891―1933)
ドイツの公法・政治学者。フランクフルト大学教授。1933年初めナチス政権成立後、スペインに亡命。同年マドリードで客死す。彼の短い生涯はワイマール共和国擁護に捧(ささ)げたものであった。1925年まで成人教育運動の分野でドイツ社会民主党傘下の青年社会主義組織の「国家肯定派」の理論的代表者として活躍。1926年以降は解釈改憲によるワイマール憲法の破壊に反対し、公法・政治学の分野で一方のケルゼンの純粋法学、他方のC・シュミットの決断主義政治学をそれぞれ批判し、「倫理的法原則」に裏打ちされた権力によるドイツ国民国家の民主的再構成の理論化に努めた。さらに理論的・実践的にも、忍び寄るファシズムの危険を警告し、それと死を賭(と)して戦った。未完の遺著『国家学』(1934)では方法論として現代アメリカ政治学のシステム論に連なる国家=ゲシュタルト論を提起して、「組織としての国家」論の形で社会民主主義国家論を展開した。『国家学』は旧西ドイツの政治学再建の基礎となり、彼は「西ドイツの現代政治学の父」といわれている。また彼の「社会的法治国家」論がボン基本法に受容されて旧西ドイツの「建国の精神的父」ともいわれている。
[安 世舟]
『安世舟訳『国家学』(1971・未来社)』
ヘラー(Joseph Heller)
へらー
Joseph Heller
(1923―1999)
アメリカの小説家。ニューヨーク市ブルックリン生まれのユダヤ系。雑誌社勤務を経て作家生活に入る。かたわら大学でも教えた。爆撃手として第二次世界大戦を体験し、8年を費やして書いた『キャッチ‐22』(1961)は1960年代の「ブラック・ユーモア」の代表的作品。故意に時間を混乱させ、漫画的人物とグロテスクな場面で軍隊と戦争の不条理性を描き、現代社会の狂気を映すものと評価された。寡作で、ほかに小心翼々の中間管理職を主人公とする小説『何かが起こった』(1974)、出世主義者の中年ユダヤ人大学教授を描く小説『輝けゴールド』(1979)がある。いずれも鋭い風刺のなかに憐憫(れんびん)と内省がうかがえる。また映画台本と戯曲が数作ある。
[北山克彦]
『飛田茂雄訳『キャッチ=22』上下(ハヤカワ文庫)』▽『篠原慎訳『なにかが起こった』上下(1983・角川書店)』▽『飛田茂雄訳『輝けゴールド』(1981・早川書房)』