日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベガン」の意味・わかりやすい解説
ベガン
べがん
Albert Béguin
(1901―1957)
フランスの批評家。スイス人であり、マルセル・レーモンとともにジュネーブ学派批評を代表する。ショー・ド・フォン市の生まれ。ジュネーブ大学で古典ギリシア文学を修め、のちパリに遊学、知的放浪の生活を送る。その間フランスの超現実主義経験と、ジャン・パウルJean Paul(1763―1825)発見がそのきっかけとなったドイツ・ロマン主義経験とを、いわば通底するような独創的境地を開いた。『ロマン主義的魂と夢』(1937)はその成果であり、この批評的エッセイによって彼はバーゼル大学教授となる(1937~46)。時代はしかしナチスの全盛期にあたり、彼の文学的活動も、ドイツ神秘主義の堕落と彼自身の内部におけるヒューマニズムへの目覚めとによって、カトリックへの改宗、カトリック系の雑誌『エスプリ』編集長就任(1950)などにみられるように、フランス的霊性に傾くようになる。このことはまた、批評対象としては、ペギー、ベルナノスへの傾倒にみられる。しかしこの間に特筆すべきは、ネルバルとバルザックのテクストに神秘性を読んだことであり、とりわけ『幻視者バルザック』(1946。邦訳『真視の人バルザック』)は現実主義者ならざるバルザックの存在を開示すると同時に、その後、二度にわたり、彼はバルザック自身とは異なる、迫力あるやり方で『人間喜劇』を編成し直してみせた。
[松崎芳隆]
『小浜俊郎・後藤信幸訳『ロマン的魂と夢』(1972・国文社)』▽『西岡範明訳『真視の人バルザック』(1973・審美社)』