ベンサム(その他表記)Jeremy Bentham

デジタル大辞泉 「ベンサム」の意味・読み・例文・類語

ベンサム(Jeremy Bentham)

[1748~1832]英国の法学者・哲学者功利主義主唱者個人行為の判断基準が幸福の追求にあるのと同様に、社会目的は「最大多数の最大幸福」の実現にあると説いた。著「道徳立法の原理序説」など。ベンタム

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精選版 日本国語大辞典 「ベンサム」の意味・読み・例文・類語

ベンサム

  1. ( Jeremy Bentham ジェレミー━ ) 英国の哲学者、法学者。功利主義の創始者。個人の行為の判断基準が幸福の追求にあるのと同様に、社会の目的は「最大多数の最大幸福」の実現にあると主張した。主著「道徳と立法の諸原理序説」。(一七四八‐一八三二

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改訂新版 世界大百科事典 「ベンサム」の意味・わかりやすい解説

ベンサム
Jeremy Bentham
生没年:1748-1832

イギリスの法学者,哲学者。弁護士の息子としてロンドンに生まれ12歳でオックスフォード大学クイーンズ・カレッジに進み,63年15歳で卒業。その後,母校でマスター・オブ・アーツを目ざすかたわら(18歳で取得),ロンドンのリンカン法曹学院で法律実務を学び,72年弁護士資格を取得。しかし弁護士業に興味がもてず,法改革,法典化の問題に取り組んだ。76年ブラックストンの《英法釈義》序論の一部を批判した《統治論断片》を匿名で出版。そこでは社会契約論,自然法論を批判するとともに,ヒューム,エルベシウスらから影響をうけた〈功利の原理principle of utility〉を提示した。この,〈正邪の判断基準は最大多数の最大幸福である〉という功利の原理を体系的に説明し,立法の分野に適用したのが,主著《道徳と立法の諸原理序説》(1780執筆,89刊行)である。幸福は快楽および苦痛のない状態とされ,快楽苦痛の種類,計算方法,法によって禁止されるべき有害な違反行為,違反行為と罰とのつりあい等が考察されている。82年に執筆された続編《法一般論》では,法および法体系の構造的特徴,各法部門の区別,法典化の問題等が検討されている。以上の立法の基礎理論に基づいて,刑法,民法,訴訟法,証拠法,国際法,憲法といった各法部門の立法原理の考察へと進み,最終的には,多少の修正を加えればどこの国にでも応用できる〈完璧な法典〉の構築を目ざした。彼は自己の立法論を実践してくれる国々を求め,ロシアに旅行したり,フランスの議会制度・司法制度の改革案を発表したりした。92年にフランス名誉市民の称号を国民議会から与えられたのはそのためであるが,フランス人権宣言には批判的であった。彼の名前が大陸諸国等で広く知られるに至ったのは,スイス人E.デュモンDumont(1759-1829)の協力,とくにベンサムの草稿を整理し仏訳した1802年《立法の理論》によるところが大きい。

 他方,1791年《パノプティコン》を発表して円形の理想的刑務所建設計画の採択を政府に進言した。みずからの資金で土地を購入して計画実施の準備を進めたが,1811年,最終的に議会で不採用が決定された。晩年,議会改革を唱え,政治的急進主義者に変わったのは,この計画の失敗とも一部関係している。09年《議会改革問答集》を執筆し,17年《議会改革案》を公表。24年哲学的急進派の機関誌《ウェストミンスター評論》を創刊。30年,政治改革への関心の集大成であり,〈完璧な法典〉構想の最後の課題であった《憲法典》を刊行。そこでは国民主権,一院制議会,毎年改選,平等選挙区,秘密投票,普通選挙(女性,文盲は除く)を骨子とする代表民主制が主張されている。死後,彼の影響をうけた人々によってイギリスの中央・地方の行政制度,司法制度の諸改革が精力的に開始された。ベンサム主義の影響の度合いについては評価が分かれているが,彼の業績は,近代法,近代国家の在るべき姿を功利の原理からする具体的な改革案をとおして示し,実践しようとしたことにあった。

 なお執筆活動は法学関係だけでなく,幅広い分野に及んだ。哲学,倫理学では,《行為の動機表》(1817),ボウリング編《義務論》(1834)等がある。経済学では,A.スミスの影響によって経済的自由主義を説いた《高利弁護論》(1787)や,植民地論,貨幣論等についての論稿がある。政治学では,ビンガム編《誤謬論》(1824)があり,ほかにも教育論,宗教論についての論稿がある。ベンサムの著述はJ.S.ミルらに影響を与えた。著述全体の中核にあるのは幸福であり,その促進を妨げる政策,法律,制度への批判,幸福の促進を阻害するために用いられる観念,思想への批判であった。
功利主義
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベンサム」の意味・わかりやすい解説

ベンサム
べんさむ
Jeremy Bentham
(1748―1832)

イギリスの哲学者。功利主義の創始者として著名。ロンドンに生まれ、ウェストミンスター校、オックスフォード大学に学ぶ。法廷弁護士の職に飽き足らず、ロック以降のイギリス思想家やフランス啓蒙(けいもう)家の著作に親しみ、早くから利己心と慈愛の精神とを一致させる普遍的原理に思いを巡らす。ヒュームの『人性論』第3巻を読了して開眼、ハチソンらにみられた「最大多数の最大幸福」をモットーとする功利主義の原理に到達する。すなわち、行動の義務や正邪の判定は、社会全体の善への効用utilityにあるという目的論の立場をとり、しかも、善を快楽または幸福と同一視し、快楽が七つの基準によって計量可能とする快楽計算を主張して量的快楽主義を唱えたのが特色である。彼は功利の原理により英国法の改正に努力し、政治的にはのちに急進主義に接近した。主著に『政府論断章』(1776)、『道徳と立法の原理序説』(1789)など。

[杖下隆英 2015年7月21日]

『山田孝雄著『ベンサム功利説の研究』(1960・大明堂)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ベンサム」の意味・わかりやすい解説

ベンサム
Bentham, Jeremy

[生]1748.2.15. ロンドン
[没]1832.6.6. ロンドン
イギリスの法学者,倫理学者,経済学者。富裕な中産階級の子として生れ,ウェストミンスター,オックスフォードのクイーンズ・カレッジ,リンカーン法学院を経て,同学院で法律制度や思想を研究,18歳でマスター・オブ・アーツ。 1776年に無署名で最初の著書『政府論断片』A Fragment on Governmentを公刊,最大多数の最大幸福こそ正邪の判断の基準であるとし,功利主義の基礎を築いた。その後『高利擁護論』 Defence of usury (1787) において,スミスの法定利子論を批判するなど,スミスよりも徹底した経済的自由主義者としての側面をもつ。また,政治的には『道徳および立法の諸原理序説』 An Introduction to the Principles of Morals and Legislation (89) などを著わし,哲学的急進主義者として議会の改革などに関する政治運動にもたずさわり,ミル父子やリカードに影響を与えた。

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百科事典マイペディア 「ベンサム」の意味・わかりやすい解説

ベンサム

英国の功利主義哲学者,法学者。富裕な弁護士の子で,12歳でオックスフォード大学に入るなど天才ぶりを示した。快を求め苦を避ける人間本性を善導して〈最大多数の最大幸福〉を実現することが道徳・立法・経済などの理想であると説き,自由主義を掲げて立法の改革等を提唱,晩年には哲学的急進派として普通選挙などを骨子とする代表民主制を主張した。主著に《道徳と立法の諸原理序説》(1789年),《憲法典》(1830年)ほかがあり,経済学,倫理学の論考も多数。理想的刑務所建設のプラン《パノプティコン》(1791年)は有名。
→関連項目政治学ミル

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ベンサム」の解説

ベンサム
Jeremy Bentham

1748~1832

イギリスの倫理学者。功利主義の主唱者。主著は『道徳と立法の原理序論』(1789年)。人生の目的である幸福は,量的に測定しうるものだとし,「最大多数の最大幸福」を図ることが道徳と立法の原則でなければならないと主張。19世紀の自由主義的改革に大きな影響を及ぼした。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ベンサム」の解説

ベンサム
Jeremy Bentham

1748〜1832
イギリスの法学者・倫理学者
『政府論断片』(1776)で「最大多数の最大幸福」を原理とする功利主義思想を唱えた。民主的な急進派の指導者として1832年の選挙法改正(第1回)に貢献。

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世界大百科事典(旧版)内のベンサムの言及

【経済人】より

…私利私欲を専一とする人間,これが経済人つまりホモ・エコノミクスの最も一般的な定義である。このような人間観は,J.ベンサム流の功利主義の思想を経由し,さらにはW.S.ジェボンズに代表されるような快楽主義の思想から影響をうけて,物欲の充足を利己的に追求する人間という考え方をうみだした。これが経済人の最も単純な定義である。…

【功利主義】より

…主として19世紀のイギリスで有力となった倫理学説,政治論であり,狭義にはJ.ベンサムの影響下にある一派の思想をさす。ベンサムは《政府論断片》(1776)のなかで,〈正邪の判断の基準は最大多数の最大幸福である〉という考えを示した。…

【パノプティコン】より

…18世紀後半にイギリスの思想家J.ベンサムによって唱えられた集中型の監獄(刑務所)の形式。一望監視施設(装置)とも訳す。…

【民主主義】より

…そして,こうしたルソーのむしろ断片的受容にみられるように,この時期のフランスでは,民主主義という言葉は,解放の希望を表す言葉ではあっても,建設の原理を具体的に示す言葉ではなかった。
[J.ベンサムとJ.ミル]
 19世紀前半に民主主義を国家の新しい積極的な制度論原理にしようと試みたのは,J.ベンサム,J.ミル(J.S.ミルの父)の2人のイギリス功利主義者であった。まずベンサムは,世紀初めに書かれた《憲法典》で,人民主権の立場から,婦人も含めた普通選挙制を主張した。…

※「ベンサム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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