ベンサム(読み)べんさむ(英語表記)Jeremy Bentham

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベンサム」の意味・わかりやすい解説

ベンサム
べんさむ
Jeremy Bentham
(1748―1832)

イギリスの哲学者。功利主義の創始者として著名。ロンドンに生まれ、ウェストミンスター校、オックスフォード大学に学ぶ。法廷弁護士の職に飽き足らず、ロック以降のイギリス思想家やフランス啓蒙(けいもう)家の著作に親しみ、早くから利己心と慈愛の精神とを一致させる普遍的原理に思いを巡らす。ヒュームの『人性論』第3巻を読了して開眼、ハチソンらにみられた「最大多数最大幸福」をモットーとする功利主義の原理に到達する。すなわち、行動の義務や正邪の判定は、社会全体の善への効用utilityにあるという目的論の立場をとり、しかも、善を快楽または幸福と同一視し、快楽が七つの基準によって計量可能とする快楽計算を主張して量的快楽主義を唱えたのが特色である。彼は功利の原理により英国法の改正に努力し、政治的にはのちに急進主義に接近した。主著に『政府論断章』(1776)、『道徳立法の原理序説』(1789)など。

[杖下隆英 2015年7月21日]

『山田孝雄著『ベンサム功利説の研究』(1960・大明堂)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ベンサム」の意味・わかりやすい解説

ベンサム
Bentham, Jeremy

[生]1748.2.15. ロンドン
[没]1832.6.6. ロンドン
イギリスの法学者,倫理学者,経済学者。富裕な中産階級の子として生れ,ウェストミンスター,オックスフォードのクイーンズ・カレッジ,リンカーン法学院を経て,同学院で法律制度や思想を研究,18歳でマスター・オブ・アーツ。 1776年に無署名で最初の著書『政府論断片』A Fragment on Governmentを公刊,最大多数の最大幸福こそ正邪の判断の基準であるとし,功利主義の基礎を築いた。その後『高利擁護論』 Defence of usury (1787) において,スミスの法定利子論を批判するなど,スミスよりも徹底した経済的自由主義者としての側面をもつ。また,政治的には『道徳および立法の諸原理序説』 An Introduction to the Principles of Morals and Legislation (89) などを著わし,哲学的急進主義者として議会の改革などに関する政治運動にもたずさわり,ミル父子やリカードに影響を与えた。

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