ベンサムのことばとして有名。もともとはハチソン、ベッカリーア、プリーストリーらによって用いられたもの。ベンサムは、その「功利utilityの原理」や「功利主義」utilitarianismをもっと人々にわかりやすく説明するために、主著『道徳および立法の原理序説』(1789)の第2版(1823)の欄外注において、「功利の原理を最大幸福あるいは最大多数の最大幸福に置き換える」と述べており、以後、今日ではこのことばはベンサムの造語とさえ考えられるようになった。ベンサムは、プリーストリーの『政府論』(1769)のなかでこの語句をみいだし、のちに転用するようになったものと思われる。
ベンサムの「功利の原理」は、すでに『政治断片論』(1776)において展開されている。ここで彼は、まず、ブラックストンに代表されるような時代・場所・人を異にする裁判所の判決例である「コモン・ロー」(普通法)重視の考え方に対して、合理的な原理に基づく普遍的・統一的な法律による統治を主張している。次に彼は、国家や政府は人々の同意や契約に基づくから、悪政には抵抗し革命を起こしてもよいという社会契約説や近代自然法に対して、政治の良否は、普遍的な法律に従って統治しているかどうかによって普通の人々でも判断できるようにすべきである、と述べている。そして、そのような法律を制定する基準が「功利の原理」であると主張する。そこで彼は、続く『道徳および立法の原理序説』の前半部分において、人間にとって何が快であり何が苦であるかを哲学的手法によって詳細に論じている。このため、彼の最大幸福原理は主として倫理学の研究対象とみなされがちだが、主著の後半部分が刑法改正論でもあるように、この原理はベンサムの政治論の哲学的前提であると考えるべきであろう。なぜなら、よい法律をつくるためにはよい議会にする必要があり、よい議会とはなるべく多数の人々の政治参加が望ましいということになるから、この最大幸福原理は、当時の最重要な政治的課題であった選挙権の拡大闘争に理論的根拠を提供するものとなった。このため、ベンサムの思想は、中産階級やチャーティスト運動に結集した労働者階級にまで支持を受けた。また最大幸福原理は、ベンサムの後継者J・S・ミルにより『自由論』(1859)、『代議制統治論』(1861)として発展させられた。
[田中 浩]
『田中浩著『国家と個人』(1990・岩波書店)』
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19世紀イギリスで有力になった功利主義の原理を,ベンサムが体系化して用いた標語。幸福は快楽であってしかも計量可能であり,その量的な極限を最大数のものが享受できる社会を理想とすることを示した。
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…ここには浅薄ではあるが,大多数の人間を支配している快楽原則を見抜いた冷徹な世知がある。功利主義の提唱者ベンサムやJ.S.ミルは〈最大多数の最大幸福the greatest happiness of the greatest number〉を標語として掲げ,幸福とは人間の求める善であり,それは快楽を求め,苦痛を避ける合理的行動によって達成しうると考える。個人の合理的利己的行動こそ政治の干渉さえ受けなければ,かえって社会の自然の調和を生み,最大善・最大幸福に寄与しうるという。…
…主として19世紀のイギリスで有力となった倫理学説,政治論であり,狭義にはJ.ベンサムの影響下にある一派の思想をさす。ベンサムは《政府論断片》(1776)のなかで,〈正邪の判断の基準は最大多数の最大幸福である〉という考えを示した。彼はこれを立法の原理とすることによって,従来の政治が曖昧な基礎にもとづく立法に依拠していたのをただそうとしたのである。…
※「最大多数の最大幸福」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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