アゾ染料(読み)あぞせんりょう(英語表記)azo dyes

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アゾ染料」の意味・わかりやすい解説

アゾ染料
あぞせんりょう
azo dyes

発色団としてアゾ基-N=N-を有する染料で、天然には存在しない。合成法は比較的容易で、まず芳香族第一アミン(ジアゾ成分)を塩酸亜硝酸ナトリウムによりジアゾ化し、ついでフェノール類芳香族アミン類(カップリング成分)とカップリングさせる。ジアゾ成分とカップリング成分の組合せを変えることにより、多種類の染料を合成することができる。特殊なアゾ染料には、芳香族アミンを二分子酸化縮合して合成されるものもある。合成染料の半数以上が、アゾ染料に属している。カップリング成分として、ベンゼン環をもつものが主要であるが、ピラゾールチアゾールなどのヘテロ環をもつものもある。アゾ基1個のものをモノアゾ染料、2個のものをビスアゾ染料、3個のものをトリスアゾ染料という。アゾ基の数が増すほど共役二重結合系が長くなり、深色となる。合成繊維のように、疎水性で緻密(ちみつ)な構造の繊維の染色には、分子が比較的に小さく、親水基をもたないモノアゾ染料が用いられる。水溶性のビスアゾ染料以上のものは、分子間力が強く、水溶液においてコロイドとなり、木綿に対して親和力をもつので、直接染料に用いられる。直接染料に用いられるビスアゾ染料のなかで、ベンジジンの2個のアミノ基をそれぞれ塩酸中で、亜硝酸ナトリウムによりジアゾ化(テトラゾ化という)して、適当なカップリング成分と反応させたものは、安価で、しかも青から黒の深色を出しうるので多量に用いられていたが、ベンジジンの発癌(がん)性が明らかになった1970年代に生産が停止され、代替として、トリジン(2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル)系の染料が開発された。アゾ基のオルト位(隣の位置)にヒドロキシ基-OH、メトキシ基-OCH3、アミノ基-NH2カルボキシ基カルボキシル基)-COOHなどをもったアゾ染料は、銅、クロムコバルトなどの金属錯塩をつくる。酸性アゾ染料や塩基性アゾ染料の金属錯塩は、耐光性や洗濯堅牢(けんろう)度が向上する。

 アゾ基は還元剤によりアミンにまで還元される。このような還元のされやすさを利用して、脱色や抜染をすることができる。アゾ染料は光により、アゾ基のトランス‐シス異性化、アゾ‐ヒドラゾンの異性化を起こす。両異性体の色調が異なる場合、光により色が変わり暗所で元に戻るフォトクロミズムを示すものがあり、これを利用した機能性色素が開発されている。

[飛田満彦]


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