日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペルシア音楽」の意味・わかりやすい解説
ペルシア音楽
ぺるしあおんがく
厳密にはイスラム文化がおこる7世紀以前の古代・中世のイラン音楽をさすが、一般には現在のイラン古典音楽のように、ペルシア語に基づいた音楽文化をも含める。現在のイランは多民族国家で、音楽文化も一様ではないが、古典音楽の伝統はペルシア系の音楽家によってペルシア文学と関連して展開したため、そうよばれることが多い。
イランの古典音楽理論(とくに音律や旋法)や種々の楽器は、広くアジアやヨーロッパの音楽文化の形成に、歴史的にさまざまな影響を及ぼしてきた。
[山田陽一]
音楽理論
古典音楽のレパートリーを構成する300ないし400の小楽曲(固定的ではなく演奏の枠組みとなるもの)はグシェとよばれ、それらを伝統的秩序に従って集成したラディフ(原義は「列」)は、今日、12の旋法体系ダストガー(原義は「組織」)に整理されている。個別名をもつ各旋法には、グシェのほか、独特の微小音程をもつ音階や終止定型が含まれる。
[山田陽一]
演奏形式
声楽が中心で、独唱者と楽器伴奏者による小合奏がとる演奏形式では、まず序に相当するダルアーマド(選ばれたダストガーの基本旋法と旋律パターンを旋律楽器が拍節的に示す)、続いて主要歌唱部であるアーバーズ(イスラム神秘主義に基づく古典詩を歌詞とし、当該ダストガーに属すグシェのいくつかを伝統的順序に従って自由リズムで展開させる)、そして最後に結びにあたるタスニーフ(あらかじめ作曲された拍節的歌曲を器楽伴奏で歌う)といった構成が基本的である。アーバーズでは、独唱者がグシェに基づきつつ即興的に旋律を創出し、伴奏者(弦楽器か管楽器)がそれにあわせて装飾演奏を行うが、そこで用いられる独特の声楽技法タハリール(高音域で声を細かく震わせながら母音唱法で旋律を歌う)は、古典声楽の重要な特徴をなすものである。
[山田陽一]
楽器
今日の古典音楽でよく用いられる楽器には、撥弦(はつげん)リュートのセタールとタール、打弦チターのサントゥール、擦弦フィドルのカマーンチェ、無簧(むこう)縦笛のネイ、ゴブレット形片面太鼓のドンバックがある。民俗音楽では、これらのほかに撥弦リュートのタンブールやドタール、複簧縦笛のソルナー、単簧双管縦笛のドゥゼレ、樽(たる)形両面太鼓のドホル、片面枠太鼓のデフなどが、英雄叙事詩の朗唱、旅回り芸人による音楽劇、結婚式での舞踊などの伴奏に広く用いられる。
[山田陽一]