19世紀スペイン最大の小説家,劇作家。マドリード大学で法律を学んだのちジャーナリストになったが,処女作《黄金の泉》(1868)で文壇にデビュー。以後,バルザックやディケンズを師とし,50年以上にわたって書き続け膨大な作品を残した。この作品群の中核をなすのは次の二つのシリーズである。その一つは46冊の小説からなる《国史挿話Episodios Nacionales》(1873-1912)で,これはトラファルガー海戦から王政復古にいたる19世紀スペインの歴史を描いたものであるが,なかでも1冊目の《トラファルガル》と7冊目の《ヘローナ》が傑出している。もう一つのシリーズは《スペイン現代小説集Novelas españolas contemporáneas》と題され20冊余の小説からなるが,ここでは主としてマドリードの中・下層の庶民の生活が対象となり,スペイン社会のかかえるさまざまな問題が提示される。1886-87年に書いた宗教的不寛容がもたらす悲劇を扱った《ドニャ・ペルフェクタDoña Perfecta》,不幸な結婚をした中流と下層の2人の女性を主人公とする《フォルトゥナータとハシンタFortunata y Jacinta》などがその代表作である。19世紀のヨーロッパの大作家たちと同じく,芸術的形式の厳密さという点においてはやや欠けるところがあるものの,卓越した観察力と視覚的な描写力を駆使し,19世紀のスペインを小説で描きつくそうとしたガルドスの業績は,バルザックの《人間喜劇》を思わせる。そして,事実彼の作品の多くはバルザック,ディケンズ,トルストイらのそれにも匹敵するものである。
執筆者:牛島 信明
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…このジャンルの嚆矢となったフェルナン・カバリェロFernán Caballero(1796‐1877)の《かもめ》,P.A.deアラルコンの《三角帽子》,そしてアンダルシアを舞台に,恋と宗教的使命の板ばさみとなった神学生の心の葛藤を描いたJ.バレーラの《ペピータ・ヒメネス》などである。この傾向に属するものの,はるかにスケールが大きく,セルバンテスに次ぐ小説家と見なされているのがB.ペレス・ガルドスである。《国史挿話》という総合的題名のもとに19世紀スペインの歴史に題材を得た46巻におよぶ小説を,また《現代スペイン小説集》という総合的題名のもとに数多くの名作を書いて,スペイン社会がかかえている問題と人間を描いた彼の偉業はバルザックの《人間喜劇》を思わせるものである。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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