改訂新版 世界大百科事典 「ホイスカー」の意味・わかりやすい解説
ホイスカー
whisker
ウィスカー,ねこのひげ,ひげ結晶などとも呼ばれる針状または繊維状の結晶体。1948年,アメリカのベル電話研究所で電話回路用コンデンサーの故障を調査中,めっきされたスズおよびカドミウム層から成長した針状の結晶が原因であることをつきとめた。さらに,この金属針状結晶が理論強度に近い引張強さをもっていることを発見し,注目されるようになった。このように長い時間をかけ自然に固体表面から発生するものを真性ホイスカーと呼ぶ。このほかに各種ホイスカーが作られるようになり,ホイスカーの定義も広くなった。大きさは径0.1~100μm,長さ10~100μm程度で,欠陥のない完全結晶であるため強度が大きい。ホイスカーの成長機構としては,基部から気化した物質がホイスカー先端にできた不純物による液相部で液化し,さらに固体となって成長するとするVLS機構が最も有名である(VLSはvapour-liquid-solidの略)。
ホイスカーは引張強さが大きいことにより,複合材の強化用として注目されている。しかし,工業規模での生産が困難であること,量産型のホイスカーは欠陥をもつようになり強度が低下し,信頼性に欠けるなどの問題点があり,実用化にはもう一歩である。一般にホイスカーを作るには気相からの固体析出を利用する。たとえば金属ホイスカーでは,金属のハロゲン化物(塩化物,臭化物,ヨウ化物など)を高温で気化し,それに水素を混ぜて低温部へ送ると基板上にホイスカーが成長する。
次に製法の具体例を2例あげる。(1)酸化アルミニウムAl2O3ホイスカー 金属アルミニウムを水蒸気と水素の混合雰囲気中で1300~1500℃に加熱溶融する。発生ガスを低温部へ送ると基板上に成長する。(2)炭化ケイ素SiCホイスカー 四塩化ケイ素SiCl4とトルエンC6H5・CH3を不活性ガス中で加熱分解反応させると低温部基板上に成長してくる。
代表的ホイスカーの引張強さを示すと,銅300kgf/mm2,鉄1300kgf/mm2,黒鉛(炭素)2000kgf/mm2,Al2O32100kgf/mm2,SiC2100kgf/mm2,Si3N41400kgf/mm2などの値となり,塊状のものの引張強さよりそれぞれ,10~100倍程度の高い強度をもっている。
執筆者:清水 紀夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報