ボールト(読み)ぼーると(英語表記)Sir Adrian Boult

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボールト」の意味・わかりやすい解説

ボールト(曲面天井)
ぼーると
vault 英語
voûte フランス語
Gewölbe ドイツ語

一般に穹窿(きゅうりゅう)と訳され、平天井に対して、アーチの原理によって構成される曲面天井総称する。石、れんが、またはコンクリート造が一般だが、木材や漆喰(しっくい)で模倣したものもある。

 ボールト架構の技術は、エトルリア人の建築技術を受け継いだ古代ローマ人によって発展させられたが、以来、中世、近世を通じて建築の組積構造における基本的な構法であるとともに、それぞれの時代様式を決定する重要な要素となっている。おもな種類に次のものがある。(1)筒形ボールト barrel v., tunnel v. 断面半円形または円弧形をなすもので、トンネル・ボールトともいい、ときには尖頭(せんとう)アーチ形の場合もある。(2)交差ボールト cross v., groin v. 交差する同じ形の二つの筒形ボールトで構成される。交差によって生じる稜線(りょうせん)により、ボールト自体の重量が四隅の支持点に分散されるため、筒形ボールトに比べて容積のより大きな空間の構成を可能にする。筒形ボールトおよび交差ボールトを用いた代表的事例としては、ローマに一部現存するコンスタンティヌスのバシリカがあげられる。(3)リブ・ボールト rib v., ribbed v. 交差ボールトの稜線に沿って対角線をなすリブ肋骨(ろっこつ)状アーチ)を取り付けて補強したものである。リブによって分割された三角形のボールトの面には、軽量の材料が使用可能となる。また、このボールト面の数によって、4分ボールトあるいは6分ボールトとよばれる。このリブ・ボールトの開発は、ゴシック式教会堂建築に大きな改革をもたらした。(4)星形ボールト stellar v. 主要なリブに枝状リブが加わり、それらの放射線が星形を形成しているもので、その事例はイギリス後期ゴシックのヨーク大聖堂その他にみられる。(5)網目ボールト net v. リブが天井全体に菱形(ひしがた)の網目状に張り巡らされたもので、これもイギリス後期ゴシックのグロスター大聖堂などにみられる。(6)扇状ボールト fan v. 積柱や持送り(ブラケット)を要(かなめ)としてリブが扇状に広がり、隣接する同じ形式のものと次々に連結して扇状のボールトが形成される。ケンブリッジのキングズ・カレッジ礼拝堂にその代表例がみられる。(7)ダイヤモンド・ボールト diamond v., prismatic v. リブを用いず、三角形を連結した多面体で形成されたボールトで、ダイヤモンドの結晶に似た構造である。中世末期、おもにバルト海沿岸でれんがを用いて多くつくられた。(8)鍾乳(しょうにゅう)石状ボールト stalactite v. イスラム建築特有の階段状に積み重ねられたボールトで、鍾乳洞内の天井面に類似するためこの名称が用いられる。この特異なデザインはイスラム建築の幻想的神秘感を助長する。

[濱谷勝也]



ボールト(Sir Adrian Boult)
ぼーると
Sir Adrian Boult
(1889―1983)

イギリスの指揮者。オックスフォード大学卒業後ライプツィヒ音楽院に留学、ニキシュに指揮法を学ぶ。1918年ロイヤル・フィルを指揮してロンドンでデビュー、以後BBC交響楽団、ロンドン・フィルなどの常任指揮者を務め、イギリスのオーケストラの水準向上に寄与、37年サーの称号を授けられた。端正な芸風の持ち主で、古典から現代まで広いレパートリーを誇っていたが、とくに現代イギリス音楽の理解者として知られ、多くの作品を初演、紹介した。

[岩井宏之]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ボールト」の意味・わかりやすい解説

ボールト
vault

建築用語。アーチを基本にした曲面天井の総称。最も基本的な形はトンネル状のもので,筒形ボールトと呼ばれる。これらは古代メソポタミア,古代エジプト,古代ギリシアなどに存在したことが知られるが,倉庫や下水道や墓廟の入口などにごく小規模に造られたにすぎない。本格的な発展は,古代ローマにいたってからで,ローマ人はエトルリア人から学んだ筒形ボールトの技術を一歩進め,2つの筒形ボールトを直角に交差させる交差ボールトを発明した。これはポンペイの公共浴場,ローマのコンスタンチヌスのバシリカなどに現れ,ネロの黄金宮殿やトラヤヌス帝の大浴場などに用いられている。ここでは一種の殻構造が形成され,天井の重量が4つの隅部で支えられるがゆえに,より広い柱なしの空間をつくることが可能になった。ゴシックの聖堂建築は,交差ボールトの稜線部を肋骨状の太いアーチによって補強したリブ・ボールトを採用,中間の壁体が不要となり,大きな窓や天高く伸びる構造など,ゴシック建築の特徴がこれによって生れた。特にイギリスのゴシック建築においては,星状ボールト,扇形ボールト,網状ボールトなどが生み出され,とりわけ装飾的な構成をみせている。また鐘乳石状ボールトはイギリスの聖堂建築のみならず,イスラムのモスク建築においても独特の様式を形成している。

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