日本大百科全書(ニッポニカ) 「マクリ」の意味・わかりやすい解説
マクリ
まくり
[学] Digenea simplex C. Agardh
紅藻植物、フジマツモ科の多年生海藻。灰紅色で、叉(さ)状分岐を繰り返す。体枝はネコの尾状に全面が細毛に覆われ、ふさふさとした形となる。体高20センチメートル以内、体枝の太さ2~3ミリメートル。体上には小形のサンゴモ類やイギス類などが着生することが多く、乾燥体は一見ごわごわとして、石灰藻のようになる。暖海性の海藻で、3~10メートルほどの深所の海底に叢生(そうせい)する。日本では紀伊半島以南に分布し、沖縄諸島の周縁海に多産する。しかし、その生育状況には差があり、沖縄周縁では長大となり、周年みられるが、分布北限となる潮岬(しおのみさき)や四国南西岸では夏季の短期間だけ出現し、体長も5センチメートルほどの小形で終わる。世界的にも分布が広く、南シナ海、アラフラ海、西インド諸島のほか、フロリダ沿岸、ブラジル北部沿岸などに産する。
[新崎盛敏]
薬用
漢方では全藻をカイニンソウ(カイジンソウ。海人草、海仁草などの字をあてる)ともいい、その煎液(せんえき)を回虫駆除薬として用いる。駆虫成分はカイニン酸で、回虫を麻痺(まひ)させる作用がある。なお、マクリの名は、新生児に胎便(かにくそ、かにばば)を出させるためにカイニンソウに大黄(だいおう)、甘草(かんぞう)を加えて飲ませたことによっている。つまり、胎便を「まくり出す」というところからつけられたものである。また、大黄、黄連(おうれん)、甘草、紅花(こうか)からなる処方も「まくり」と称される。江戸時代には、これで胎便を下すと子供は母乳を吸う力を増し、皮膚がじょうぶになり、元気に育つとされ、新生児にはかならず用いられた。なお、これまで、鷓鴣菜(しゃこさい)はマクリの漢名とされていたが、現在ではアヤギヌCaloglossa leprieurii (Mont.) J. Ag.(コノハノリ科の海藻)にあてるのが正しいとされる。この海藻の成分と応用はマクリと同様である。
[長沢元夫]