マツバボタン(読み)まつばぼたん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マツバボタン」の意味・わかりやすい解説

マツバボタン
まつばぼたん / 松葉牡丹
[学] Portulaca grandiflora Hook.

スベリヒユ科(APG分類:スベリヒユ科)の不耐冬性一年草。ブラジル原産。属名はポーチュラカ。また、乾燥地を好むことからヒデリソウ日照草)ともいう。茎や葉は多肉棒状、地面をはうように広がる。赤、桃、橙(だいだい)、白色、絞りなどで径約3センチメートルの5弁花を多数開き、美しい。八重咲きの品種もある。花は朝開きで、昼ころにはしぼむが、毎日咲きかわる。雄しべは多数あり、黄色の花粉で覆われるが、触れるとかすかな運動をおこす。これは訪花昆虫の体に花粉をこすり付けるためといわれる。

 4~5月に播種(はしゅ)し、一度植え替えたのち、花壇に定植する。日当りのよい、乾きぎみの所でよく育ち、一度つくると、翌年はこぼれ種子から生えてくるほどじょうぶである。

[伊藤秋夫 2021年2月17日]

文化史

原産地のブラジルでは、11時の花flor das onze horasとよばれるが、それはこの花が早朝に開き、猛暑のもとでは11時ころに閉じる性質に由来する。このほか、雄しべに昆虫などが触れると雌しべに向けて運動する性質や、多肉質の葉が夕方から茎に沿って上向する一種の就眠運動などの特色をもち、特異な草花として知られている。世界に広がったのは比較的遅く、1829年イギリスの植物分類学者フッカーW. J. Hookerによって記載・発表された。前田曙山(しょざん)は『園芸文庫』第2巻(1903)で、「マツバボタンは余りよく繁殖するので、卑俗の花とされるが、花は美しく、不遇だ」と述べ、渡来当初は珍しく、西国のある大名が数十鉢を庭前に並べて展示、その鉢を守衛がうっかり倒したのでお手討ちになりかけた話を紹介している。曙山はオランダより寛文(かんぶん)年間(1661~1673)に渡来したといわれているとしたが、これは疑問で、幕末ころに渡来したと推定される。白井光太郎(みつたろう)は『植物渡来考』(1929)のなかで『天保度後蛮舶来草木銘書(てんぽうどのちばんはくらいそうもくめいしょ)』(1859)に「スベリヒユ一種、桜咲きで、本紅、黄、紫の三種あり」と書かれているスベリヒユは、マツバボタンであるとしている。

[湯浅浩史 2021年2月17日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マツバボタン」の意味・わかりやすい解説

マツバボタン(松葉牡丹)
マツバボタン
Portulaca grandiflora; rose moss

スベリヒユ科の小さな一年草。ハナマツナの別名もある。南アメリカ原産で,日本には江戸時代後期に伝えられ,観賞用に広く栽培されている。茎,葉ともに多肉質で紅色を帯び,多数分枝して広がる。葉は円柱状の肉質で,螺旋状に互生し,葉腋には長い白色毛が生える。夏から秋にかけて,枝の先端に葉と長毛に囲まれて径3~4cmの美花を単生する。萼片は小さな膜質で2枚あり,花弁は5枚あって広い倒卵形をなし,先端がへこむ。花色は紫,紅,淡紅,黄,白色,斑 (ふ) 入りのものがある。おしべは多数あり,めしべの柱頭は5~9個に分れる。花は昼に開き夜は閉じ,曇って薄暗い日には開かない。果実は球形で熟するとふたが取れるように開き,鉛色の種子を多数出す。

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