改訂新版 世界大百科事典 「マリエル共和国」の意味・わかりやすい解説
マリ・エル[共和国]
Marii-El
ロシア連邦内の共和国。ソ連邦ロシア共和国のマリ自治共和国であったが,1990年主権宣言を行い1992年マリ・エル共和国と改称した。面積2万3200km2,人口72万8000(2002)。首都ヨシカル・オラIoshkar-ola(人口25万3000)。ヨーロッパ・ロシアの中東部,ボルガ川の中流に位置する。国土はおおむね平たんで,約半分が針葉樹を主とする森林でおおわれている。気候は比較的穏やかな大陸性で,1月の平均気温は-13℃,7月は19℃,年降水量は450~500mm。民族構成は,マリ人43.3%,ロシア人47.5%,タタール人5.9%,その他(チュバシ人,ウクライナ人など)3.3%(1989)となっている。マリ人はチェレミス人ともよばれ,フィン語系に属するマリ語(チェレミス語)を話す。9~12世紀ごろにマリ人はすでにボルガ流域に居住していた。1230年代にモンゴルの支配をうけたあと,1551-52年にロシアの支配下に入った。ただし,一部のマリ人は,この後もタタール人とともに20年にわたってロシアのキリスト教への強制改宗や重税に抵抗した。他のボルガ流域の諸民族と同様に,17~18世紀のボロトニコフの乱,ラージンの乱,プガチョフの乱などの農民戦争には,多くのマリ人が参加した。帝政末期には,土着信仰を保持する異教徒が3割近くいたといわれる。革命後の20年11月にマリ自治州として成立し,36年12月に自治共和国に昇格した。元来農牧・養蜂業を主たる生業としてきたが,豊富な森林資源を利用した木材加工・家具工業のほかに,近年では機械・金属・化学工業が急速に伸びている。農業では肉牛,乳牛を主とする牧畜が中心となっている。工業化のもたらしたロシア人等の流入にともないマリ人のロシア語への同化が進み,現在民族語を母語とするマリ人は88.4%(1989)である。1990年ごろよりマリ人の民族運動が活発化し,民族文化,言語などを復権させる要求が高まっている。
執筆者:青木 節也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報