ライムギ(読み)らいむぎ(その他表記)rye

翻訳|rye

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ライムギ」の意味・わかりやすい解説

ライムギ
らいむぎ
rye
[学] Secale cereale L.

イネ科の二年草。カフカス、小アジア地域原産。秋に発芽し、幼植物で越冬し、翌春に草丈1.5メートル、品種によっては3メートルにもなり、茎の先に穂をつける。穂は長さ10~18センチメートル、扁平(へんぺい)で、約30節に小穂をつける。小穂は三小花からなり、下位の二小花が結実する。穎果(えいか)は開花後約40日で結実し、胚(はい)の反対側面に縦溝があり、形はコムギに似るがやや長細く、表面にしわが多いのが特徴。粒色は淡黄、褐、赤褐、黒色などいろいろである。1000粒重は36グラム内外。ムギ類のなかでは耐寒性がもっとも強く、高地、冷涼地に適し、やせ地や、強酸性の土地からアルカリ性の土地まで幅広い適応性をもっている。もともと原産地域でコムギ畑の雑草として生えていたものが、しだいに、コムギがよく育たないような不良地用の作物として、紀元前3000~前2500年に栽培されるようになったと考えられている。北ヨーロッパには青銅器時代に伝わり、紀元後1世紀ころまでに全ヨーロッパで栽培が広まった。とくにロシア、ウクライナポーランドドイツなどでは、現在も主食の一つとして主要な穀物である。日本へは明治時代にヨーロッパから導入され、おもに北海道で栽培されるようになったが、食用にはされず、飼料用とされ、それもいまでは栽培はわずかである。世界の総生産量は約1503万7000トン(2005)、9割がロシア、ポーランド、ドイツ、ウクライナなどヨーロッパに産し、ほかにアメリカ、カナダトルコが主産国である。

[星川清親]

利用

ライムギは製粉してパンとする。栄養成分は100グラム中タンパク質8.5グラム、脂質1.2グラム、糖質75.4グラム、灰分0.7グラム、カルシウム20ミリグラム、リン130ミリグラムなど、ビタミンB類、ニコチン酸などを含み、小麦粉に似る。粉を練って発酵させ、粘りを出させる。味はやや酸味があり、暗褐色のパンができ、黒パンとよばれる。ライムギの麦芽からは黒ビール、ウイスキーをつくり、ウォツカ原料ともされる。茎葉を青刈り飼料とするためにも栽培され、サイレージにするなど、ライムギ生産量の3分の1は飼料である。また青刈りを土に鋤(す)き込む緑肥としても利用される。なお、ライムギの穂にバッカク菌が寄生してできる紫黒色で1~2センチメートルの長さの麦角(ばっかく)は、有毒であるが、婦人病の止血収縮剤や血圧上昇剤として医薬に用いられる。

[星川清親]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ライムギ」の意味・わかりやすい解説

ライムギ (ライ麦)
rye
Secale cereale L.

子実を食用や飼料とするために栽培されるイネ科の二年草。葉の葉身の長さは10~25cmほどで,青色がかった緑色である。出穂して草丈は1.5~2.5mに達し,冬作のイネ科作物ではもっとも高くなる。穂は長さ10~18cmで,穂軸に節が約30あり,各節に,小穂が1個ずつつく。小穂は3小花からなるが,最上部の小花は不稔となることが多い。小花の外側の穎(えい)の先端は長い芒(のぎ)となる。粒(穎果)はやや細長く,背面に縦溝があり,表面にしわが多い。1000粒の重さは約36gである。原産地はトルコ,イランで,アフガニスタンで品種分化したと考えられている。栽培化されたのは前3000~前2500年ころ。1世紀ころまでにヨーロッパ全域に広まった。一方,東方への伝播(でんぱ)は遅れ,日本には,明治初期にヨーロッパから導入された。主産国は旧ソ連,ポーランド,ドイツなど。ヨーロッパ諸国では,生産は徐々に減少している。日本では,北海道や山形,長野などの山間高冷地でわずかに栽培されているにすぎない。他の麦類より低い温度で発芽でき耐寒性があるが,種をまくのはコムギやオオムギと同じころである。北海道では9月上・中旬,東北では9月下旬から10月まで,西南暖地では11月ごろまで可能である。また,春にまいて1年生の作物として栽培することもできる。収穫は7月から8月上旬,春まきの場合は8月中・下旬となる。

 ライムギは製粉して食用とする。ライムギ粉はやや黒みをおび,パンをつくるとき乳酸発酵で酸性になると粘りを生じる性質がある。この性質を利用してつくられたライムギ粉のパンはいわゆる黒パンで,酸味と独特の風味をもつ。最近では,これを主食とする東欧諸国でも,小麦粉を25~50%混ぜることが多い。めん類や菓子の原料にもする。また,ライムギの麦芽から,黒ビールやウィスキーを醸造し,ウォッカの原料にもする。穀実生産量の約3分の1は飼料用で,配合飼料の原料とする。茎葉は青刈飼料や緑肥としての利用もある。穂にバッカクキンが寄生した菌核は,子宮筋の収縮をうながす性質があり,麦角の名で薬用とされる。
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百科事典マイペディア 「ライムギ」の意味・わかりやすい解説

ライムギ

西南アジア原産といわれるイネ科の一〜二年草。高さ1.3〜1.8m,穂は穂状花序をなして頂生し,3花からなる小穂を互生する。種実は緑褐〜紫色で長形。ムギ類中最も耐寒性が強く,春まき型と秋まき型とがある。種実を黒パン,醸造原料とするほか,青刈りして飼料とする。また花部に発生する麦角を医薬原料に用いる。おもな生産地は旧ソ連,ポーランド,ドイツなど。
→関連項目飼料作物

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ライムギ」の意味・わかりやすい解説

ライムギ
Secale cereale; rye

イネ科の越年草。黒海とカスピ海周辺の原産といわれ,世界各地で栽培されるが,日本ではあまりみられない。茎は高さ 1mぐらい,短く屈曲した基部から叢生する。葉は幅広い線形で,表面はざらつく。5月頃に,10~15cmの穂状の花をつける。熟した穎果は左右不対称で長い芒 (のぎ) をもつ。黒パンの原料や飼料。茎はストローとして多用される。

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栄養・生化学辞典 「ライムギ」の解説

ライムギ

 [Secale cereale].カヤツリグサ目イネ科ライムギ属の作物で,パンの製造などに用いる.

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世界大百科事典(旧版)内のライムギの言及

【麦】より

コムギオオムギライムギエンバクなどの植物やその子実の総称。単に麦といえばとくにオオムギとコムギとを区別せずに示す場合が多い。…

※「ライムギ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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