日本大百科全書(ニッポニカ) 「マントヒヒ」の意味・わかりやすい解説
マントヒヒ
まんとひひ
hamadryas baboon
[学] Papio hamadryas
哺乳(ほにゅう)綱霊長目オナガザル科の動物。エチオピアからアラビア半島にかけて分布し、狭域とはいえユーラシアに分布域を伸ばしている唯一のヒヒである。雄は体長80センチメートル、体重20~30キログラムに達し、顔の両側と背中が灰色の長毛で覆われ、マントを着たようにみえる。雌は小形で褐色の体毛に覆われ、ほかのヒヒと大差ない。高地から海岸までの草原や半砂漠にすみ、地上性で雑食性である。社会は3層からなり、最下層の集団は、1頭の雄と数頭の雌を含むワンメールユニットで、いくつかのユニットと、ユニットをもたない雄たちが一つのバンドをつくっている。バンドの構成は安定しており、これが基本的社会単位で、ユニットはその下位単位である。バンドの構成員はいっしょに遊動するが、各ユニットの雄は、その雌の動きにつねに気を配り、離れようとすると頸(くび)にかみついて連れ戻すので、ユニットの輪郭は保たれている。同一バンドの雄たちの間には抑制が働いており、雌を奪い合うことはない。雌をもたない雄は、既存のユニットに入り込み、その雄の後継者となるか、ユニットから1歳未満の雌の赤ん坊をさらい、その世話を焼きながら成長を待って新たなユニットを形成する。夜間には、いくつかのバンドが岩場に集まり休眠集団(トゥループ)をつくる。休眠集団の構成は安定していないが、互いに認知しあったバンドによって形成される。
[川中健二]