マンパワーポリシー

デジタル大辞泉 「マンパワーポリシー」の意味・読み・例文・類語

マンパワー‐ポリシー(manpower policy)

人的資源開発政策国民能力・資質向上を通じて国家発展を図ろうとする政策。

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大学事典 「マンパワーポリシー」の解説

マンパワーポリシー

[マンパワーポリシーの誕生]

人的資本論勃興(1950年代後半から60年代)と時期を同じくしつつ,経済発展のためには一定の労働力構成(職業別・教育段階別)が必要であるとし,その構築のために教育計画が必要とされるという考え方が普及した。こうした発想はマンパワーアプローチと呼ばれ,この考え方を踏まえた一連の政策はマンパワーポリシー(人的能力開発政策)と呼ばれ,実際にも1950年代~70年代に各国で進められた。

 マンパワーアプローチにもとづく経済発展と労働力構成との関係について多くの実証分析がなされたが,なかでもハービソンとマイヤーズの研究(Harbison & Myers)による,中等教育修了レベルの技能労働力と一人当たりGNPの相関がもっとも高いことの発見が,ミドルレベルマンパワーが工業化に決定的な役割を果たすという政策的含意となって,当時の途上国のみならず,先進国の教育政策にも大きな影響を与えた。日本においては,こうしたアプローチにもとづいて文部省によって複数の分析がなされたが,なかでも「日本の成長と教育」(1962年)は,教育計画策定の必要性を各国の状況や日本における教育投資収益率の値などを踏まえて指摘した最も初期の政策文書といえる。またアメリカ合衆国においては,1957年のソヴィエトによる人類最初の人工衛星スプートニクの成功も大きな影響を与え,国を挙げての大学教育奨励の時代に入り,日本もその影響を多分に受けることとなった。

[日本における日本のマンパワーポリシー]

日本におけるマンパワーポリシーの実施例としては,1950年代半ば以降に新長期経済計画(1957年)一環として理工系学生8000人増募があり,その後の国民所得倍増計画(1960年)でも17万人の科学技術者の不足が見込まれ,理工系学生の増募が重要な課題となった。こうした「理工系人材養成」のほかに,「医歯薬系人材養成」「教員人材養成」などもマンパワーポリシーの具体例として考えられる。以上のほかに,日本におけるマンパワーアプローチの研究としては,潮木守一「経済変動と教育」(『現代教育社会学講座2 社会変動と教育』)が代表的なものとして存在するが,重要なポイントとして経済システムの変動とともに高等教育システムへの需要も変化するといった観点から分析が行われている。逆にいえば,経済システムと高等教育システムを「固定的」に捉えると,こうしたマンパワーアプローチでは現実との間に大きな乖離が生じることになる。

[マンパワーポリシーに対する懐疑と現状]

こうした問題は,1973年と79年の原油価格急騰によるいわゆるオイルショックなどで経済システムの急変が生じることによって現実のものとなった。アメリカではさらにベビーブーム世代の大学進学が重なり,大卒者の供給が過剰となって高学歴失業の問題が生じた。また多くの発展途上国でも,同様に高学歴者の間で高い失業が発生し,いわゆる「オーバー・エデュケーション問題」が生じて,実際にマンパワーポリシーの想定通りに経済成長が達成されることもなかった。その結果1970年代において,マンパワーポリシーに対する懐疑的な態度が急速に高まることになる。しかしその後,こうした政策がまったく行われなくなったわけではない。日本において,福祉分野やIT分野などで行われる人材養成などは,現代版マンパワーポリシーの例として挙げることができる。また知識経済化・知識社会化が唱えられる中で,1990年代以降,日本において大学院拡充政策が進められるが,こうした政策もマンパワーポリシーとして理解することができるであろう。しかし,大学院の拡充も,結果としては「高学歴無業者」といった形での新たな「オーバー・エデュケーション問題」を生んでおり,実際面でのマンパワーポリシーの難しさを示している。
著者: 島一則

参考文献: Harbison, F.H. and Myers, C.A., Education, Manpower, and Economic Growth, New York: McGraw-Hill, 1964.

参考文献: 金子元久「発展と職業教育―問題点の整理」,米村明夫編『教育開発―政策と現実』アジア経済研究所,2001.

参考文献: 文部省『日本の成長と教育』文部省,1962.

参考文献: 小方直幸編著『大学から社会へ―人材育成と知の還元』玉川大学出版部,2011.

参考文献: OECD, Occupational and Educational Structures of the Labour Force and Levels of Economic Development, Paris: OECD, 1970.

参考文献: 潮木守一「経済変動と教育」『現代教育社会学講座2 社会変動と教育』東京大学出版会,1976.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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