改訂新版 世界大百科事典 「ムカシトカゲ」の意味・わかりやすい解説
ムカシトカゲ (昔蜥蜴)
tuatara
Sphenodon punctatus
喙頭(かいとう)目ムカシトカゲ科Sphenodontidaeの爬虫類で1科1属1種。三畳紀,ジュラ紀に栄えた喙頭類の唯一の生残りで〈生きている化石〉といわれる。頭骨には側頭窓(そくとうそう)が上下に並んで二つあり,方骨は頭蓋に固着し前上顎骨はくちばし状をしている。ニュージーランド北島のステフェンス島など周辺の小島に生息し,人によって持ち込まれたネズミなどが野生化するまでは,ニュージーランド全域に分布していた。
全長60~70cm,頭部は大きく,胴はずんぐり形で四肢が太く,尾は後半部で側扁する。後頭部および胴から尾部にかけての背中線上には,飾りうろこが並ぶ。全身が敷石状の細鱗に覆われるが,腹面のうろこはやや大きい。背面はオリーブ褐色か緑褐色で多数の黄白色の小斑点が散在し,腹面は白っぽい。本種には頭頂部に〈第三の眼〉と呼ばれる顱頂眼(ろちようがん)が存在し,退化的ではあるがレンズと網膜を備える。幼体ではこの部分の頭蓋に小さな穴があって,網膜は神経で脳と連絡するが,成熟すると頭蓋の穴は皮膚で覆われる。顱頂眼はおそらく光に対する感覚器の一つと考えられるが,他のトカゲ類ではまったくの痕跡しかない。本種の骨格構造はトカゲに近いが,鳥類や絶滅爬虫類と同様,肋骨の中央部に鉤(かぎ)状の突起があり,またワニと同様,軟骨性の腹肋骨がある。尾は自切し再生するが,自切の個所は他のトカゲ類と異なり,尾椎骨の中央部で切断する。
夜行性で,昼間はミズナギドリなどの穴に同居し,夜間行動してコオロギ,バッタなどの昆虫,カタツムリ,ミミズなどをとらえるが,海鳥の卵や雛を食べることもある。物質代謝の速度が遅く,静かにしていると1時間に1回ほどしか呼吸せず,気温が11℃まで低下しても行動する。交尾は夏ごろに行われ翌春に受精するが,雄は外部交接器を欠き交尾は総排出腔の接触により行われる。産卵数は5~15個で,20年ほどで成熟し寿命は100年以上といわれる。すべて政府機関の厳重な保護下にある。
執筆者:松井 孝爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報