改訂新版 世界大百科事典 「ミズナギドリ」の意味・わかりやすい解説
ミズナギドリ (水凪鳥)
ミズナギドリ目ミズナギドリ科Procellariidaeの鳥の総称。全長28~91cm。羽色は大部分の種が全身灰色か褐色,または背面が黒く腹が白い。ミズナギドリ科はミズナギドリ目のなかで種類数がもっとも多く,多岐に分化したグループである。陸上環境と比較して相対的に変化に乏しい海洋環境をさまざまな様式で利用するように分化した。すなわち体の大きさやくちばしのこまかな形態,餌のとり方,繁殖や渡りの時季と様式が種によって少しずつ異なる。しかし,海面近くを羽ばたきと滑空とをまじえて飛ぶ飛翔(ひしよう)法と,少産,長寿命という繁殖,生活史の特徴は共通している。
ミズナギドリ科は大きくつぎの4群に分けられる。(1)フルマカモメ類(英名fulmar)は海の表層で動物プランクトンや魚類,イカ類をとらえて食べる。漁業廃棄物にも集まる。フルマカモメ,ナンキョクフルマカモメ,オオフルマカモメなどが含まれる。(2)ミズナギドリ科のなかでは小型なクジラドリ類(英名prion,whalebird)は,ハシボソクジラドリ,ナンキョククジラドリなど1属5種に分けられている。この鳥はくちばしの基部が扁平になり,その縁は櫛(くし)状になり,頭を水中に入れ広いくちばしをあけて前進し,動物プランクトンをこしとって食べる。オキアミ類を食べるヒゲクジラ類とよくいっしょに見られることから,この名まえがつけられた。(3)シロハラミズナギドリ類(英名petrel)は,シロハラミズナギドリ属,アオミズナギドリ属,アナドリ属などよりなる。体が太めで中型,翼は長く,くちばしは太くて短く黒色である。このうちシロハラミズナギドリ属Pterodromaは互いに近縁な25種あまりからなり,おもに南半球の熱帯・亜熱帯海域の島で繁殖する。繁殖地はいくつかの島に局限されていることが多い。繁殖を終え北半球に長距離の移動を行う種もあり,日本近海で数種観察されている。日本ではシロハラミズナギドリP.hypoleuca(英名Bonin petrel)が小笠原諸島で繁殖している。(4)ミズナギドリ類(英名shearwater)はもっとも飛翔力を発達させたグループで,体は細く,細長い翼をもち,くちばしも細長い。高度の飛翔力を発達させたのはオオミズナギドリ属Calonectrisで,ユーラシアの両端にそれぞれ1種が分布し,東のものは日本列島特産のオオミズナギドリC.leucomelasである。日本近海の島々で大きな集団をつくって繁殖している。ミズナギドリ属Puffinusは16種からなり,海上の島で繁殖し動物プランクトンやイカ,魚類を表層でとらえる。日本では小笠原諸島でオナガミズナギドリP.pacificusが繁殖している。南半球で繁殖し,初夏,日本近海に渡ってくるアカアシミズナギドリP.carneipes,ハイイロミズナギドリP.griseus,ハシボソミズナギドリP.tenuirostrisは北太平洋で越冬し南半球に戻る。
ミズナギドリ目
ミズナギドリ目Procellariiformesの海鳥は,共通の特徴として発達した管状の鼻をもち,特異な体臭をはなつ。かれらは大きく4群に分けられる。飛翔能力を著しく発達させ外洋に進出し,表層の動物プランクトンやイカ,魚類を利用するごく大型のアホウドリ科Diomedeidae(13種),中型のミズナギドリ科Procellariidae(約60種),小型のウミツバメ科Hydrobatidae(約20種)と,潜水能力を発達させ沿岸の浅海で水中から餌を利用するように進化したモグリウミツバメ科Pelecanoididae(5種)とである。このどれもが,島で集団繁殖し,1腹ただ1個の卵を産み,長い養育期間をかけて雛を育てあげる。また繁殖年齢に達するまでの期間が長いが,成鳥の死亡率は低く,長寿命である。
執筆者:長谷川 博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報