改訂新版 世界大百科事典 「ムルターン」の意味・わかりやすい解説
ムルターン
Multān
パキスタンのパンジャーブ州中部,チェナーブ川とサトレジ川とに囲まれたレチュナ・ドアーブ(ドアーブは〈河間地〉の意)南端部の都市。人口119万7384(1998)。周辺の肥沃な灌漑農業地帯からの小麦,綿花,羊毛を集散する。食品,紡績,外科医療機器などの工業が立地するほか,南西方約300kmのスイからパイプラインで供給される天然ガスをもとに,火力発電所(出力26万6000kW)が近郊に建設され,製鋼,機械などの重工業の立地が計画されている。また化粧タイル,ホウロウ,革製品,じゅうたんなどの伝統工業でも名高い。西アジアおよびインダス河口部とインド北西部とを結ぶ交通路上の要衝を占め,西方に対するインド亜大陸の前線都市として古くから栄えてきた。古代の叙事詩《マハーバーラタ》では,マラーバMalāvaの名で現れる。ここを攻略したおもな西方勢力は,前326年のアレクサンドロス大王,712年のウマイヤ朝カリフ勢力,1005年のガズニ朝のマフムード,1398年のティムールなどを数える。このほか641年には玄奘が訪れ,茂羅三部盧国と記している。1528年のバーブルによる攻略後は約200年間にわたってムガル帝国のペルシアとの交易都市として栄えた。1818年にはシク王国領となったが,1848-49年の第2次シク戦争によりイギリス領に編入された。周辺にはここで興亡した諸都市の遺跡が散在し,現在の旧市も遺丘の上に建つ。インドにおけるムスリム勢力の拠点であった歴史を反映して,旧市には12~14世紀の5人のイスラム聖者の廟墓が残る。
執筆者:応地 利明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報