日本大百科全書(ニッポニカ) 「メキシコ銀」の意味・わかりやすい解説
メキシコ銀
めきしこぎん
スペインがメキシコ征服後、メキシコ産の銀で鋳造した銀貨の通称。一般にはメキシコ・ドルのことであり、日本では幕末以降、墨銀(ぼくぎん)ともよばれた。
16世紀ボヘミアのヨアヒムスタール(ヨアヒムの谷)で鋳造された銀貨が、ヨアヒムスターレル、また単にターレルとよばれた。これがスウェーデンでダーレル、イギリスでダラーと訛(なま)ったが、スペインのペソがドイツのライヒスターレルと同価値であったため、イギリス人はこのダラーという名称をスペイン銀貨のペソにつけた。スペインがメキシコで銀山を開発し、1497年以降鋳造したスペイン・ドル(ペソ)を「メキシコ銀」と総称するが、このほか、ペルー産銀貨、スペイン銀貨をも含める場合もある。これが大量にヨーロッパに流入、価格革命を起こし、従来のドイツ銀貨にかわり流通した。また17、18世紀にはこれがアジア市場にも現れ、中国では花辺(かへん)銭、双柱(そうちゅう)銭などとよばれ、幕末の日本にも大量に流入、国際金銀比価(カロンヌの比価)に比較して日本の比価が金に割安であったために大量の金(小判)が日本から流出することになった。
狭義のメキシコ銀は、メキシコがスペインから独立(1821)したのち、1824年以降鋳造されたメキシコ・ドルをさす。重量、品位は時代により異なるが、だいたい420グレーン(1グレーンは0.065グラム)前後、品位1000分中900前後が多かったようである。スペイン・ペソは8レアールの価値があり、重量423.7グレーンでメキシコ・ドルもだいたいこれと同等で、典型的なものはピラー・ドルといわれ、ジブラルタルの2本の「ヘラクレスの柱」が刻まれ、東西両洋の地球図が描かれている。ドルを示す、Sをあしらった記号はこの2本の柱にPESOのSを組み合わせたともいわれる。
[飯塚一郎]