改訂新版 世界大百科事典 「メスアカムラサキ」の意味・わかりやすい解説
メスアカムラサキ
Hypolimnas missippus
鱗翅目タテハチョウ科の昆虫。中型のチョウで開張は6~7cm。雄は雌より小型,黒地に卵形の大小3個(片側で)の白紋があり,前・後翅に青紫色に光る部分がある。雌は翅がやや横長で橙赤色,前翅端に黒色と白色の斑紋があり,マダラチョウ科のカバマダラに擬態しているので有名である。和名はこれらの特徴に基づく。翅の表面の差は雌雄が別種と見えるほど著しいが,裏面の差はそれほど大きくない。世界の熱帯,亜熱帯に広く分布する。アメリカ大陸にはアフリカからの奴隷船によって偶然にもたらされたという説がある。日本では八重山列島に定住し,毎年そこから繁殖を続けながら北上すると推察されている。秋には九州西部・南部でも見られ,迷チョウとして本州北部からも記録がある。九州本土で繁殖したものの子孫は冬,食草が得られなくなると死滅する。日本での食草はスベリヒユに限られる。幼虫は褐色で,体に短い突起の列がある。
ひとまわり大型(開張6.5~8.5cm)の近似種で,やはり亜熱帯から迷チョウとして本土を訪れるものにリュウキュウムラサキH.bolinaがある。雄はメスアカムラサキより大きいが逆に白紋は小さい。雌は産地によって非常に変異に富む。やはり西南日本に上陸後,秋までに少なくとも1回発生することがあるが,前種に比べややまれである。本土ではサツマイモの葉に産卵し,それで幼虫が育つものが多いが,アフリカ,オセアニアでは他の食草が多く記録されている。両種とも体に比べて卵は小さく,雌1匹で1000個も産むことがある。
執筆者:高倉 忠博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報