最新 心理学事典 「メタ分析」の解説 メタぶんせきメタ分析meta analysis 心理学では,同じ研究課題について数多くの研究がなされることがあるが,同じ研究課題について公表された複数の文献の中から,特定の文献群を第三者にとって再現できるような基準を設けて選択し,その結果を展望することを系統的レビューsystematic reviewとよぶ。とくにそれらの文献中に記載された統計量を統計的な手法で統合する分析をメタ分析とよぶ。具体的には,複数の文献に記載された,⑴サンプルサイズに影響されない独立変数の従属変数への影響の強さを表わす指標である効果量,⑵用いられた検定方法によって算出されたp値,のいずれかを統計的に統合することが多い。もともと心理学や教育学分野で発達したが,現在では医学研究でも精力的に利用されている。 【効果量の統合法】 従属変数が連続の場合には,実験群と対照群などの二つのグループの平均差をその共通分散で割ったものが,2値データの場合には比率の比(リスク比)などが効果量effect sizeとして利用される。相関係数にフィッシャーのz変換を施したものも効果量である。これらの効果量を統合する際には,各研究でのサンプルサイズや推定量の標準誤差を考慮した統合を行なう必要がある。具体的には,研究数をI,研究iで得られた効果量diの分散(標準誤差の2乗)の逆数を重みwiとすると,統合された効果量は重み付き平均 d*=Σwidi/Σwiとなる。また統合された効果量の分散は1/Σwiとなる。したがって統合された効果量 の信頼区間はd*±1.96/となり,d*×Σwiが 自由度1のカイ2乗分布に従うことを利用した有意性検定を行なうこともできる。 【p値の統合法】 各研究のp値しかわからない場合,研究iでのp値をpiとし,Φを標準正規分布の累積分布関数とすると,帰無仮説が真のもとでΣΦ-1(pi)/が標準正規分布に従うことから,統合されたp値を求めることができる。ただし,統計学的には効果量を統合する方が望ましい方法であることが知られている。 【出版バイアスに対するメタ分析】 心理学では「ある条件間に差があった」という結果は査読付論文として採択されやすいが,差がなかったという結果は採択されにくい傾向がある。差がないという結論が得られた論文は公表されにくいが,実際にはそのような研究は「差があった」とする論文の数より多いかもしれない。出版バイアスpublication biasまたはファイル引き出し問題file-drawer problemとは,メタ分析を行なう際に,特定の方向性をもつ結果のみが公表されることによって,統合結果にバイアスが生じることをいう。出版バイアスを除去するために,一般に論文のデータベース上に掲載されている研究結果から,データベース上には掲載されなかった結果も含めた場合の結果の推定や,未公刊論文数の推定を行なう方法がこれまでに複数提案されている。漏斗プロットfunnel plotは,x軸に効果量の大きさを,y軸にサンプルサイズ,または標準誤差の逆数をプロットしたものであり,もし出版バイアスがなければプロットは漏斗を逆にした左右対称の散布図を描くはずである。 効果量が同じでも小規模の研究や,同じサンプルサイズでも効果量が小さい研究は有意になりにくいため,この図の左下部分が欠けている場合には,有意でない研究が出版バイアスによって報告されていない可能性がある。この漏斗プロットが対称であるかどうかを検定するエッガーの検定もよく利用される(Egger,M.et al.,1997)。 【研究間の異質性を考慮したメタ分析】 各研究で得られた結果が同質かどうかを検定するためには,効果量の統合法での議論を利用して,Σwi(di-d*)2がI-1のカイ2乗分布に従うことを利用する。この値がカイ2乗分布の上側5%点(あるいは20%点)よりも大きい場合には,研究間で結果にばらつきがあると考えることができる。研究協力者の平均年齢など研究結果に影響を与えうる要因が研究間で異なる場合,それらを説明変数として効果量を説明するメタ回帰モデルmeta regression modelを利用して,研究間の異質性が何に起因するかを調べることができる。その際には,重みwiを利用した推定が行なわれる。 〔星野 崇宏〕 出典 最新 心理学事典最新 心理学事典について 情報