翻訳|metalanguage
高次言語ともいう。われわれはしばしば(言語を使って)言語について語る。そのとき、そこで話題とされる言語を「対象言語」とよび、それについて語るために使われる言語を「メタ言語」とよぶ。たとえば、英語の文法について日本語で語る場合、英語が対象言語、日本語がメタ言語である。また、ある形式的な記号体系を日常言語によって定式化する場合、対象言語はその記号体系自体であり、メタ言語は日常言語である。
対象言語とメタ言語とは、実際上同じ言語であってもよいが、しかし、ある記号や文がそのどちらに属するものとして使われているかを明確に区別しないと、とくに論理学や意味論において奇妙な矛盾が生ずることがある。その典型的な例が、「うそつきのパラドックス」である。たとえば、「a」という記号を、「aは真なる文ではない」という文を指定するようななんらかの記述句の省略記号として使うならば、aが真なる文であるのは、「aは真なる文ではない」という文が真なる文であるときであり、したがってaが真なる文ではないときである。つまり、aが真なる文であるのは、aが真なる文ではないときである、ということになる。このような矛盾が生じるのは、「a」という記号(および「真である」という述語)が、対象言語とメタ言語の両方に属するような仕方で使われているからである。
[丹治信春]
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…論理的意味論の基本的概念はいわゆる命名の理論と,いわゆる思考内容の理論の二つに分かれる。この分野では言語の意味特性の記述にはもはや自然言語では不十分で,メタ言語(記述を目的にした人工度の高い言語)が必要になる。論理的意味論を初めて詳細に研究したのはG.フレーゲで,その発展に寄与したのはポーランドのルブフ・ワルシャワ学派に属する論理学者たちJ.ルカシェビチ,T.コタルビンスキ,K.アジュキェビチ,T.タルスキ,その他ではR.カルナップ,W.クワインなどであり,この論理学的意味論は数理言語学,機械翻訳,自動情報処理などの発展に伴って広い応用領域がある。…
…たとえば,赤信号は〈危険!〉と自然言語に翻訳されて理解され,その逆ではない。自然言語のみが自然言語について語ることができ(言語についての言語,これをメタ言語metalanguageという),了解とは自然言語の,自然言語への翻訳にほかならない。アメリカの応用数学者C.E.シャノンは,意味とは翻訳の際の不変体である,という。…
…明治時代に日本人がいかにヨーロッパ文化の諸概念を取り入れ造語を行うことによって民族の文化と意識の更新を企てたかを考えるならば,このことは容易に理解されよう。
【言語内翻訳】
こうした言語間翻訳の基礎をなすのが言語内翻訳であって,これは,たとえば,(a)同一文化に属する異なる話し手と聞き手が同一の自然言語でコミュニケーションをしたり,(b)同一個人が理解のために難しい語をやさしい語に言い換えたりする場合(日本語についていうなら,和文和訳)であり,後者は言語についての言語,メタ言語であり,一般に了解の基盤をなす。言語内翻訳の際にも,言語間翻訳と同じようなプロセスが生じているが,ふつう日常の対話などでは母国語の自然さゆえにそれが気づかれないのである。…
※「メタ言語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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